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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

【連作短編❹】アナザー・クロウズ・トリートメント/ACT

創作-無題 創作

突然に『谷崎理樹』と言う人間から連絡が来た。

社会のみならず、世界からも断絶を進んで行う私へと。

それを喜ぶべきか、怖がるべきか、面倒臭く思うべきか判断が付き兼ねた。

 

しかし、彼は私の本名、メールアドレス、そして現状を知っているのだ。

現在、私がひきこもっているとまで推測されているかは分からない。

でも、高校を中退していることと、調子が崩れている事実は把握されている。

彼の送ってきた内容を見返した。

 

「先日、たまたま柚木さんを見かけました。

 凄く重い荷物を持っている様な、辛そうな表情をされていたので」

 

凄く重い荷物。

辛そうな表情。

 

私は他者から、そう観察されるのか。

自分が普段どう言った姿をしているのか、自分では見られない。

しかしこの指摘は当たっていると直感した。

今、この現実から逃げ出したいのが私の本音だ。

渦巻く様々な感情を無理に振り切って、私は谷崎に返信を送った。

そうでもしないと、私は今に雁字搦めになってしまう。

 

「谷崎さん

 失礼を承知でお話しします。

 私は記憶が抜けている為、あなたの事が把握出来ていません。

 でも、心配して下さることをとても嬉しく思います。

 もし谷崎さんが宜しければ、一度お会い出来ませんか?」

 

誰かを自分から誘って会う。

それは学校から離れて2年、つまり高校2年当時から19歳の現在まで出来なかった。

他者と接触する度に、良い思いをしない。

これ以上はもう止めよう、いつもそう言った諦念で締め括られる。

私はそう言う人間だと自分で理解しているつもりだ。

誰からも相手にされない。

若しくは、適当にあしらわれて終わる。

そう言った結末を繰り返すのは苦しいのに。

 

私は空を見た。

視界の隅に見える精神科病院の建物は歪な印象を与える。

11月の空は高く透き通っているのに、建物はコンクリート製で暗く重い。

風が冷たい。

薬局に処方箋を出して帰ろう。

谷崎から何と返って来るか、考えるのも止めよう。

 

これは被害妄想だろうか、私は全てが自分に圧し掛かって来る概念を常に持つ。

今回のメールについても、一種の策略だと言う疑念が離れない。

谷崎と称する人物へと返信した自分に後悔する事が、この先あるかも知れない。

そう思っておくと、後々の傷が小さくて済む。

私なりの処世術。

 

私は踵の高い、歩きにくさを極めた靴で、病院に隣接する薬局へと歩く。

外に出る機会はこう言った場面でしか無い為、この靴はほぼ新品の状態だ。

今着ている服も同様の状態、一張羅の緑色のワンピース。

家でひとり洒落た格好をしても虚しいだけ。

今纏っている外見は、武装している私。

 

薬局の自動ドアの前に立った瞬間、携帯が振動した。

私は顔を顰めた。

ふたつ以上の用件が重なると、軽く混乱させられる。

薬局に入るべきか、携帯を取るべきか。

強く見せたい反面、臨機応変に対応出来ない自分がもどかしい。

 

何時の間にか自動ドアが開いている。

「こんにちは」

薬局員が声を掛けた。

こいつは偽造だ。

作り笑いは、顔を見ればどうしてだか直ぐ判る。

職業上、患者には優しく接しろとか言うマニュアルがあるのでしょう?

しかも自分が精神科とこの薬局に通っている期間も、2年。

顔を憶えられていると言うのも妥当な理由だろう。

 

「すみません、お願いします」

私はそれだけ言うと、処方箋とその履歴を記入される冊子を出した。

経済が厳しい為に申請した、自立支援医療の証明書も添える。

親は、稼がず家に居る私を厄介そうに見るのだ。

それを少しでも和らげる為に、この医療費減額の支援を申請した。

市役所に行って手続きをすることすら、本当は怖かったけれども。

 

壁に掛かった時計を見ると、時針は正午を指していた。

平日の昼間から、いい若い者が何をしている。

薬局内の待合に座る老婆の、そう言わんばかりの目線を感じた。

それから焦点を外す為、自分の空腹を満たす為に、販売棚でいつもの品を取った。

 

『1箱で1日分の栄養 ダイエットビスケット』

 

親は共働きだ。

碌に食事を作らない。

自分で空腹を満たすしか方法が無いのだ。

現在の食生活は、外食とも言えないこの購入行動で成り立っている。

味はどうでも良い、と言うか分からないから、栄養だけ摂取できればそれで良い。

分からない、正確に言うならば、感じないのだ。

何を食べても味がしない。

暫く前から始まったこの感覚を、主治医に話したことがある。

彼は眉を顰めて、一言呟いた。

「食べられるものは、出来るだけ食べてね」

それに私は、ビスケットという形で則っている。

 

怪訝な目線を無遠慮に私へ寄越す老婆。

なるべく彼女から離れた椅子に座ると、私は携帯を見た。

谷崎から返信が来ていた。

何と書いてあるのか。

いつも、最悪の場合を私は想定する。

 

「柚木さん

 ありがとう。

 僕の行きつけの場所があります。

 フォッジ・マスターと言う市内の店です。

 そこで11月25日の18時、お会いできませんか?

 参考までにリンクを貼ります」

 

メッセージの下には、文面通り、確かに何かのアドレスが追記されていた。

その文字を押すと、画面が変わった。

 

『FORGE MASTER』

種別:バー

場所:F県Y市大通公園前2-19

営業日:平日のみ

営業時間:18時~翌2時

 

バー?

それは、酒を頼んで呑む場所だったと思う。

しかも営業日と時間がかなり偏っている。

谷崎は行きつけ、そうメール本文に記載しているけれども、これはどういう経緯か?

彼は酒を呑める年齢なのか?

そして、この営業日と時間帯に合わせられる生活を送っているのか?

私は彼とのやり取りの履歴を見直した。

 

「同じ授業を受けていた」

「その授業のメーリングリストから柚木さんに連絡した」

 

そう明記されている。

ならば、彼は私と同い年の筈だ。

私は4月2日生まれで、19歳。

同級生と思われる谷崎が、それ以上の年齢だと言う可能性は薄い。

谷崎は未成年でバーに、しかも平日の夜に出入りしている。

更にそこは行きつけ。

 

昼夜逆転を繰り返す生活を私は送っている。

つまり、昼に睡眠薬で眠って夜半起きるとか、その逆を実行するとか。

時間は幾らでも合わせられる。

問題は、私が独力でその知らない店に行き、憶えの無い谷崎を探すこと。

それすら自分には壁が高い。

壁へと当たろうと言う気持ちは薄かった。

だからこそ、私は自宅と精神科、薬局程度の定点移動しかしていない。

 

自分の中で、谷崎に対する疑念と興味、更に葛藤がせめぎ合った。

 

1週間分の抗精神病薬抗不安剤睡眠薬の入った袋を渡された時、結論を出した。

もう自分がどうなっても構わない心理もあるのだ。

だから、今更になって何を拘る必要があるのか。

 

谷崎に返信した。

「谷崎さん

 分かりました。

 私はその日時で大丈夫です。

 お会いしましょう」

 

私は通院以外、毎日がほぼ予定なし。

だから即答出来る。

誰かとの約束をする、と言う感覚に居た堪れなさを感じた。

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