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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

【連作短編❸】ストレンジ・ノスタルジック・シミュレータ/SNS

創作-無題 創作

私の心を異物が貫通した。

そこでは『何か』が出たり入ったりしている。

 

私の心に誰もが関係出来ない。

そこまでは『何も』かもが届くことは出来ない。

 

私の心へ叫びが響くのか。

そこへは『何か』が私に向かって声を上げる。

 

こう言った実感の元、自分は完全に消滅した、と思うしかなかった。

何も言われずに両親と医師に記憶を消されてみろ。

本来自分を擁護する為に存在している筈の両者だ。

そいつらに横暴極まりない治療―とも言えない療法―を施される。

誰も信じられなくなって当然だ。

 

「あなたはそう言う事が重なって、人間不信みたいになっているんだろうね」

 

今の主治医からは、よくこう言われる。

その発言は全く持って私の中枢へ接触しない。

自分は人間を信じない、と言う事は自分で重々承知だ。

私の事は私が一番よく分かっていると思っている。

他人に私の心内が見えて堪るか。

私の心は私だけが独占している。

 

主治医の発言へ、いつもこう答える。

 

「そうですか、すみません」

 

断定も肯定も否定もしないのだ。

この世で最も勝手の良い言葉は、このふたつだと思っている。

問い掛ければ相手が勝手に答えるだろうし、謝れば相手の火は燃え上がらない。

卑怯だと評されても仕方が無い。

しかし、私は生きて来て、この処世術を編み出したのだ。

 

今日もこのふたつを駆使して、病院での診察を終わらせた。

私は人間不信の名に相応しく、確かに他者と交流を持っていない。

最早、携帯電話すら無用の長物だ。

仮に、ごく稀な話として、誰かから電話が掛かって来るとしよう。

画面に浮かび上がる履歴の文字。

それだけで胸が躍るような、頭が混乱するような、鼓動の高まりを感じる。

 

私に誰が何の用?

誰か私に何か用!

 

そのふたつがせめぎ合って、最終的に自分が何をしたいのか分からなくなる。

 

携帯、契約は通信容量が定額の規定に入っている。

容量5ギガバイト、に加え、要らない無料通話オプションで、占めて月額4000円強。

ひと月前まではフィーチャーフォン、所謂ガラケーを使っていた。

その時は月額が1800円だった記憶がある。

ずっと、ずっと、何年も、その額面。

メールすら月に3、4件来たら多い部類に入ったし、通話はゼロ、の期間もあった。

使ってもいないガラケーは水没の末路に晒された。

だからスマートフォンに買い替えたのだ。 

 

調べてみると、月に通信容量が1ギガバイトで月額2000円弱、の規定があるらしい。

時間を見計らって、それに替えようと思う。

他者より金銭が大切だ。

貯蓄するのが、私の生きる上で見るすべてだ。

 

正当防衛、若しくはキチガイの発作と言う名目で、親を明日こそ殺す。

その後生きる為に、私は金銭を集めているのだ。

弟はいつの間にやら、風の噂では関東の私立大学に逃げてしまったらしい。

いつ彼がそれを実行したのか、を私は知らない。

 

私は意味も無く携帯の電源を入れた。

「バッテリーは1年使ったら替えた方が良いです、消耗しますから」

家電量販店の電話コーナーで、中年男性の店員がそう話していた。

私の様な、非常に消極的な使い方でも消耗はするのだろうか?

 

素朴な疑問を持ちながらも画面を見つめると、それは一瞬暗くなって、次に光った。

そして表示が出た。

 

「メール受信1件 Riki Tanisaki」

 

錯覚かな、と思った。

 

タニサキリキ?

誰だろう、男性だろうか女性だろうか、こいつ日本人だろうけれども。

スパムメール、若しくはウイルスメールの可能性を考えた。

殆ど誰ともやり取りしない割には、そう言った選択肢を私は持っている。

ひとりの世界で、知識だけ蓄えていれば、誰だってそうならざるを得ないと思う。

 

慣れない動作で指を動かし、メール件名を探る。

 

「谷崎」

 

一言、そう記述されていた。

開こうかどうか迷った。

 

しかし無用の長物、それが私にとっての携帯なのだ。

スパムなりウイルスなりでぶっ壊れて貰っても、一向に構わないしどうでも良い。

 

操作すると、本文が浮かび上がった。

 

「理樹です。

 最近、柚木さんの様子を見ていて心配になったので連絡します。

 本当に大丈夫ですか?

 心配です」

 

柚木、ユキと読んで私の本名だ。

谷崎理樹は、私を知っているらしい。

でも私はと言うと、谷崎を全く知らない。

どういう訳だろう。

けれども、私の本名とキャリアメールアドレスが一致した上での、この内容だ。

偶然にしては出来過ぎている。

 

私は思案した末、谷崎の送って来た本文の上に、返信文を打った。

 

「谷崎理樹さん

 質問にお答えする前に、私の質問に答えて頂けませんか。

 私のアドレスを何故ご存知なのでしょう?」

 

送信する瞬間、私は自分を、現実に生きるひきこもりだと実感した。

背中に汗を掻き、両脇は濡れ、指は微かに震えたのだ。

怖い、と言うか、自分のしていることに自信がいつも持てない。

 

けれども送信は完了された。

何か、何でもいいから、私の出来る何かをしなければ。

そうしないとこの毎日からは脱出出来ない。

 

おかしなもので、私は進んで他者と接触を拒んでいた筈なのに。

 

携帯は直ぐに着信を知らせる振動を立てた。

私はそれに細かく震える。

 

「メール受信1件 Riki Tanisaki」

 

先程と同じ通知文だった。

再度、震える指で開く。

これだけのこと、と自覚しつつも、恐怖と期待が半々にせめぎ合う。

 

「大塚柚木さん

 自己紹介も無しに、大変失礼しました。

 僕はあなたと同じ授業を以前一緒に受けていた者です。

 そのメーリングリストから連絡しました。

 高校を中退されたと伺ってから、ずっと心配しています。

 先日、たまたま柚木さんを見かけました。

 凄く重い荷物を持っている様な、辛そうな表情をされていたので」

 

谷崎理樹も、授業も、メーリングリストも頭の中には存在していなかった。

けれども、私は過去の記憶が消えているのだ。

だから、これらが実際のものだとしても、全くおかしくはない。

 

私の心の中で、何かが動いた。

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