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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

【連作短編❶】サイレント・エキストラ・タイムズ/SET

創作-無題 創作

 現在、私は死んでいる。

 自分の死んだ脳味噌と死んだ精神が自分で把握出来る。

 生活そのものも死んだ。

 だから、私を統合し総合している要素全てが死んでいる。

 

 

「死んだ魚の目って私の目だよなぁ」

 独り言を勉強机へ向かって呟いた。

 机の上には高校二年生の私には相応しくない、数学Cのチャート式参考書が開かれている。それは、普通、高校三年生で学ぶ科目だ。チャートには、掠れた汚ねえインクにて歪んだ汚ねえ文字で、私の書き込みが所狭しと埋められている。それは最早参考書ではなく、私個人の数学的回想録と言った方が正しい気すらしないでも無い。

 何故に私はこう言った勉学に励んでいるのか?いや、励んでなどいない。通っている学校がそう言う方針だから、仕方なく従っているだけだ。

 私は後悔している。F県立D高校、学区の偏差値最上学校に志願して入学し、その後、成績を維持し続けたことを。

 今の私の気持ちはこの一言で塗り潰されている。

「努力などするものではない」

 つまらん中学でつまらん同級生につまらん契機で迫害され、私は登校拒否を実践した。と書くと非常に茫漠とした言い方になるけれども、つまり、公立バカ中学にて頭バカ同級生にバカみたいな方法ー女子特有のアレ、誰かひとりリーダー的存在の気に入らない奴が居たら、全員揃って無視なり陰口なり暴力なり嫌がらせを始めると言う奴ーで苛めに遭い、私は中学に行くことを拒否した。

 中学の苛めの記憶は、卒業から二年経った今でも、毎晩私の夢に出て来る。

 教室で、同級生が皆遠巻きに私を嘲笑っている情景。私は彼等が憎いのだけれども、彼等はこう言った感情を持った私の事を面白がっているのも承知だ。そうでないと、苛めなど実行する価値が無い。

 つまらん奴等に嫌気ならぬ憎気が差した私は、勉強に打ち込む措置を取った。

「あいつらが入ることの出来ない学校に入って、見返してやる」

 これが私の出来る、最も高等だと思われる自衛且つ復讐手段だった。

 まさか、その手段すらも、自分の首を絞めることになろうとも思わずに。

 「忘れるのは忘れたいからだ」と言う心理学者フロイトの言葉通りだ。実際に現在の私の頭中に、派生した断片は浮かび上がってこない。只、ムカつく、死にたい、殺したい、そう言った感情だけが混じり合って色彩を作り、表出して来る。

 反して悪夢を見る、その事実はどう解釈したら良いのだろう。中枢は幾つかに分岐しているのが真の姿で、即ち自分の中身が分裂しているもかも知れない。

 そう言えば昔、精神分裂病とか言う病名があった。私はもしかしてそれなのだろうか?

 まあ、別にいいけれども。

 精神病院なり辺土なり地獄なり見せてくれよ。

 起きている世界でも、眠っている世界でも、私は苦しいだけなのだから。

 これ以下の世界が見たい気持ちが無くはない。

 

 私は湯気の立ち昇る、濁ったコーヒーの入ったカップの口を啜った。こんな不味いモノどうして大人はわざわざ好んで飲むのだろう?と言った素朴な疑問を抱えていた過去があると言うのに、今ではカフェイン中毒と称しても過言ではないペースで、自分はそれを体に入れている。理由は、単純に、眠気覚ましの為。美味しいとは思わない。ただ効果を期待しているだけのこと。

 時計の針は三時を回っている。

 午前三時ではなく、午後三時だ。

 私の生活は昼夜が逆転している。高校にも行かなくなって二か月。だから、私には、朝起きて学校に行って、昼勉強して同級生と話して、夕方帰宅してまた勉強、と言った一日の日課からかけ離れた生活を送るのに、充分な環境が整えられている。

 今度学校に行かなくなった理由は、苛めではない。何もかもがバカらしく、やる気も起こらず、ひたすら放棄したい感情だけが私を埋め尽くしているからだ。

 とは言え一方にて私は、勉学を続けている。

 

 父親と母親は、私が不登校を始めた当初、泣いたり宥めたり怒ったり、様々な表現を駆使してどうにかこうにか学校生活に復帰させよう、そう言った作戦を使って来た。主に父親が怒り役。母親は泣き役。宥める、と言うのは彼等そのものの感情を、彼等自身が宥めると言う意味だ。

 バッカじゃね?

 私はこいつらを完全に軽蔑している。

 此方からすると、彼等の手段は最早常套化され、何を言われ表現され被ろうとも何も感じないのだ。ひたすらに、またこの人達いい気になっちゃってるよ、つまんねえイキモノだよ、と言った調子が目の前に、砂漠が如く延々と広がっている。行っても行っても終わりは見えず、終わり自体在るのかも分からず、手で掬うと零れ落ちて無かったことになってしまう、そう言った状況。

 

 私の回想且つ開創記録として、こう言った話がある。

 親が私の書いている日記を取り上げたのだ。

 この鬱陶しい毎日、総合すると人生と環境の鬱憤を書き殴り、最終的に自分と周りの人間への憎悪へと直結する結論へといつも落ち着く、そう言った毎日の私の独り言の集大成。それについて父親が言及して来た。

 

「ユキ、あの日記は何なんだ」

「え?日記って?」

「茶色い表紙のノートだ。お前だろ、あの筆跡は」

「ちゃいろいひょうしーもしかして、M良品のノート?」

「そんな事はどうでも良いんだよ!何だあの内容は!」

「内容?って、私の日記勝手に読んだん!?」

「やっぱりお前が書いたんだな?俺達がそんなに不満か?あれだけ言いたいことがあるなら直接言えよ!」

「いや、待ってよ、私の日記をどうして父さんが読んでる訳?部屋、入ったの?」

「入ったも何も、子供は親に従属しているんだから、何も言えないモノなんだよ!」

「はあ?父さん、プライバシーとか言う単語って知ってるの?」

「馬鹿にするな!お前は俺達に養われているんだから、口答えが出来ない身分なんだよ!」

「ちょっと、直接言えって言ってるそっちはどうなのよ?口答え出来ないなら、言ったって言わなくたって結果は変わらないじゃない」

「うるさい!屁理屈言うな!あの日記はもう捨てた」

「ええ!?私の書いたものを、勝手に読んで捨てるって横暴極まりな、」

 そこで父親の平手打ちが飛んだ。

 母親は様子を遠くから虚ろに傍観している。弟は隣の部屋で息を殺しているらしい。

 家の中は、私の頬を殴り付ける父親の掌と、床に叩き付けられる私の身体の衝突音しか響かない。

「ショウをもっと見習え!あいつはお前の弟なのに完全に追い越されているじゃねえか!」

「なんで、そこで、ショウが出てくんのよ」

「サッカーやってエースで生徒会もやっている。しかも昨日D高校に推薦で合格したのは知ってるか?」

「え、ショウが?うちの高校に来るの?」

「あいつの風当たりは大きいぞ?俺はショウがどうして推薦で通ったのかすら分からん」

「どういう事?」

「本当に頭悪いなお前は。姉のお前は不登校生じゃねえか!」

「―私が、あの弟の足を引っ張っているって言いたいの」

「やっと分かったか。お前の事気持ち悪い気持ち悪いってショウも言っているぞ?」

「ショウ、も、?」

「お前はいい加減復学しないと、家族にも見限られるぞ!」

「家族、に、も、?他の皆にはもう見限られてるってこと?私は」

「俺はそんな事言っていない、屁理屈を捏ねるのはいい加減にしろってもう一回言わせんのか?」

「言い方からすると、そう聞こえるじゃない」

「ああ?殴られたいのか本気でよ、お前は!」

「どっちがそういう展開に持っていってんのよ」

「いい加減にしろ!」

 

 私はキレた。

 本気で殴られ殺される前に、と思った。

 拳を固めた父親の一瞬の隙を突いて、私は彼の脇を走ってすり抜けた。

「ユキ、」

 父親が何か言うのを気にも耳にも留めず、私は台所の足元、開き戸、それを掴んで開けた。

 戸の裏には、包丁が三本刺さっている。刺身、野菜、肉包丁の順だ。

 刺すならば、肉包丁が適す。

 私は一番右の、鋭い刃渡りのそれを力任せに引っ張り上げ、自分の胸の前に右手で掲げ、言った。と言うよりも、自動的に口から滑り出た。

「いい加減にしろ」

 母親が固まっているのが、視界の隅に見える。

 弟は壁の向こうで何をしているのか。

 私は右手を振り上げた。

 

 気が付くと、私は寝台に縛り付けられていた。視界には家の光景と父親と母親と壁の向こうの弟、ではなく、白衣を着た男性女性が所狭しと歩き回っている姿が飛び込む。

 手足は帯で拘束されている。

 

 私は何処に居るのだろう。

 分からないことが多過ぎる。

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