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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(33)―本当にバカなのは誰だ? 完結

創作-並行 創作

 四月の夜風は、露出の多過ぎる服装の私には肌寒い。

 冬の厳しさはとうに過ぎ去ったけれども、私の中はいつでも寒いまま。

 私は微かな震えを抑えながら路上に立ち、客を待っている。

 

 大学を自分も辞めたのだ。

 

 耐えられなかった。疎外と自分の無理に。

 

 新学年履修科目オリエンテーリングの際、私には大学にはもはや、誰も話す相手が存在していないことを実感した。それは、教授も、学生も、その他周りのあらゆる人間に対しても。

 哲学科大教室にて、私は完璧に周りから疎外され、孤島に置かれた。

 誰一人として、私に目もくれず、相手にしなかった。

 私は只、『存在』していたのだ。

 それが本当につらかった。自分こそが他人へと演技して嘘吐きまくって非難しまくってどうでも良い、そうしていたにも拘らず。

 

 すべてはそれらから始まって、終わったのだ。

 そして、自分の身を亡ぼした。

 

 私は自棄を起こしたのかどうかも分からないまま、学生課へ中退届を出した。その時自分は感情が麻痺していたのかも知れない。外部ゼミの皆と同じ精神状態の結果行動だったと言って良いと思う。

 奥野と言っていた学生指導の主任が、届を出した私の元にすっ飛んできて、会話を交わした。

 

「中退します。私にはこの世界、合いません」

 私はああ自分今何も表情に浮かんでいないだろうな、そうはっきり自覚出来る、醒めた声で言った。奥野はおずおずと、弱い表情と声で返した。

「勿体無いですよ」

「無理です」

「それに、上野さん、ご両親の承諾は得られているのですか?」

「両親?」

「はい」

「知るか!あいつら私をテキトーに作って産んで、その後放置してんだぜ?この学校だって自分の努力で入ったんだ!両親とかそう言う奴等が私のこと、とやかく言う権利なんてねーんだよ」

「それは、もしかして、」

「ネグレクトだよ」

「・・・そうなんです、か」

「これがフツーなんじゃねえの?皆さんよ?」

「あの、立ち入ったことを伺いますが、上野さん、生活はどうされているのですか?」

「両親からの振込だよ。それだけで繋がってるんだよ。あいつらは外国でのうのうと過ごしてるからな」

「外国って?」

「知らねー。両親なんて知らねー。私が高校中退したら、どっか行っちまった」

「上野さん」

「上野とか、そう言う名前棄てたいんよ」

 上野さつき。この両親から受け継いだ名前すら、私は憎かった。

 他の名前が欲しい。

 

 そこで思い付いた。

 

 

 風俗のバイト生として、入社とも言えない入社をしたのは、その翌日。

 皮肉にも、H大学生のたむろする夜の繁華街を、そいつらに向けたバカにし切った目で歩いていたら、即刻風俗にスカウトされた。

 それから話は早かった。

 店長相手に体験入店と言う名目で寝かされた。「冷たい目と童顔が物凄くそそるねえ」そう究極にいやらしい目で言われて気に入られた私は、正社員とも言っていいのかもよく分からない社員に直ぐ変わった。

 私は店長のみならず、店員にも回された。

 別にいいけれども。

 

 私の今の職業は風俗の嬢なのだ。

 

 大学を中退してから、私は率直に生きられている。

 好きでもない男と寝ることは自分に合うと思う。

 他人と少しでも繋がっていたい。

 その思いがあるから。

 

 

「名前、なんて言うの?」

「キサキ、です」

「キサキちゃんね。一時間幾ら?」

「私、数万取っちゃうけど、それでもいいの?」

「いいよ。声も見た目も可愛いし」

 

 そして寝る。

 私のルーティンワーク。

 

 両親へは、何も言っていないし、言う手段も思いつかない。

 だから振込は続いたまま、私は風俗の給料を貰いつつ、大学とは全く違う世界に身を置いている。

 突然、入社ーと言って良いのだろうか?-して、指名を多く取る私へと、他の嬢は冷淡に接する。けれども気にはならなかった。

 それは、誰かと、身体だけでも良いから、繋がっているから。

 

 

 ああ、向こうからスーツ、アルマーニだろうか、それを着た髭を綺麗に剃った男が歩いて来る。

 私はそう言うお高い男が好きだ。より自分を大切にしてくれる、気がするから。それは高額の金銭を出してくれるからかも知れない。私は良いものを食べて、良いものを着て、良い暮らしをして、なんて望まないけれども、最高の思いをして生きていたい強烈な願望を自覚している。

 暗い歩道を、ライトが照らす。私と男の陰は長く伸びて、近付いて、短くなる。

「君」

 意外にも向こうから声を掛けられた。

「はい」

「名前は何て言うの?幾ら?」

「キサキです。お金は、後で話しましょうか?」

「どこが良い?」

 スムーズな話し振りに、この初老の男は金を相当持っていて、相当女で遊んでいると直感出来た。それと同時に、こいつからは自分と自分の人生を棄てている、そう言った雰囲気も感じられた。でないとこういった感覚は持てないと思う。

 自分と同じ匂いに堪らなく気まずくなって、取り敢えず問う。

「おじさま、名前は何て言うの?」

「ハシヅメ」

 

 

 自分と他人と世界を擲って、病だけが心にこびり付く。  

 本当は誰とも交わることはない。

 私達は並んで行きている。

 

 

 完結

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