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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(32)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

 端詰は保釈金を支払って、警察の拘留を振り払って戻って来た。流石私立大学の学長、それはかなりの高額になったらしい。新聞の一面もニュースもこぞって、そうはやし立てた。

 とは言えども、端詰がゼミの女子学生の誰かー噂では、中村梓沙と言うことになっていたがーを犯したことには変わりがない。そのことが大学内のみならず、世間、いや世界の見方だった。それだからこそ、端詰が学長は勿論、教育界に復帰する可能性はどこからどう見ても皆無だし、実際にそうだった。

 罪人が、仮に、幾ら金銭を払っても、幾ら反省したとしても、幾らそう言う振りをしたとしても、結局行った過ちは消せはしないのだ。

 

 私は保釈金の件を報道で知った時、早く端詰が出廷して、裁判に掛けられて刑に服すればいい、そう念じた。願いと言うよりも、念じることに近かった。でないと私が今度どうなるか分からない。事実を知ってしまったからだ。

 

 いつ端詰が私の前に現れるだろうか。

 いつ端詰が私に襲い掛かるだろうか。

 いつ端詰が私を殺しに来るだろうか。

 

 これは被害妄想だ、こう思ってはいけない、こう考えると私が私を潰してしまう。

 自分でそう分かっていても止められない思考状態に、自分で陥った。

 別田は電話を掛けてきた後も、姿を一切現さなかった。卒業論文を提出しなかったこと、イコール卒業を放棄したことと、当然の如くなってしまう。つまり別田の大学院進学の夢は一旦ながらも、藻屑として消えたのだ。

 私は進級が決まった。学内の文学部哲学科の学生掲示板に、その旨が他の学生の名前に混じって、活字で小さく張り出されていた。哲学科内論文最優等評価を受けたことも、その隣に書き出されていた。

 しかし、この事実について話す声は、一切私の耳に入らなかった。

 

 中村の行方を私は知らない。

 そして中村が中退したのは学生内に一挙に広まった、訳でもなく、大した感興すら皆に及ぼさなかった。

 端詰、いや外部ゼミ。所詮は学内に多数あるゼミのひとつ。それに何処の誰が所属していて中退した、そう言ったことは取るに足りないことに過ぎないのだ。ゼミに所属するのは、他の大学はどうだか知らないが、H学院大学ならば三年生も四年生も全員取り決められていることだ。加え、中退者だってそこら中に居る。

 だから私達は本当のところ、ちっぽけな存在。注目を集めていたのは、誰かが死んだと言う事実のみだった。

 

 上野さつき、の名前も時間と共に、皆の記憶から消去されていったように見受けられた。

 私が学内を歩いていても、誰も目もくれないし、声を潜めて喋ったりもしない。それはほんの少し前、外部が死んだ直後からすると、考えもつかないことだった。

 

 虚しい。

 虚しいよ。

 虚し過ぎる。

 

 心の中が空っぽになって、澱だけ底辺にこびり付いて、あとは乾涸びた。

 

 私はどこかしら何かしらで、誰かに見て貰いたがっていたのかも知れない。

 

 どうしようもなかった。

 ゼミ生は、私以外、誰も学校に残っていない。

 だから、私と学内で交流を持つ学生も、居なくなってしまった。

 

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