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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(31)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

 その次の日、私の電話の液晶画面に発信者の表示がこう浮かび上がった。

 

『H学院大学学生指導課』

 

 私は論文の結果が哲学科長から来る、と聞いていた為、訳が解らなくなる。

 何故学生指導課から電話が?

 そのことを怪訝に思いつつも、受信ボタンを押す。

 

「はい」

「こちらはH学院大学学生指導課です。上野さつきさんのお電話で間違いありませんでしょうか」

 平坦な女の声だった。

「はい」

「私は学生指導課長の奥野です。上野さんにご連絡したいことがあってお電話致しました」

「はい。何でしょうか?」

「論文の結果と、中村梓沙さんの件です」

「はい」

 私は息と唾を飲み込んだ。

「論文は、あなたに哲学科の最優等評価を与えることが決まりました。これは哲学科長からの託です」

「・・・はい」

「そして、中村梓沙さんですが、彼女はゼミと大学を離れることが確定しました。これは大学学長からの託です」

 瞬間、沈黙が訪れた。

「・・・それは、中村さんが退学される、と言うことでしょうか?」

「そうです。彼女は個人的な都合により、本学を中途退学されます」

 ちゅうとたいがく。

 私の勧告されていたことを、中村が実現すると言うのか。

「・・・では、別田さん、別田渡さんはどうなるのでしょうか?外部、いえ、端詰?ゼミには彼と私しか残らなくなりますが」

「彼は、依然行方不明です。この件について、私からこれ以上お答え出来ません」

「では、うちのゼミで論文の単位を取ったのは、私だけなのですね?」

「そうです。以上、ご連絡までに」

 

 突然電話は切れた。

 

 その素っ気無さと、余りの素っ頓狂なタイミングに、私は暫く受話器を持ったまま、茫然と自室に立ち尽くしていた。

 

 分からないことは訊くしかない。いつか私はそう思っていたことを引っ張り出した。

 と思うと、また電話の着信音が鳴り響く。

 

『別田渡』

 

 行方不明者、現る。

 心臓が震えた。

 私は興味と好奇心と恐怖に駆られながらも、震える手と唇を持って電話を取った。

 

 無機質な電子音が、電子を介した肉声に変わる。

 

「別田さん?」

「・・・そうだ。上野、他山と下北は、死んだんだってな」

「・・・はい」

「子供も、死んだんだろ?それは勿論」

「そう言うことになりますね」

「俺は、知ってるんだ。それは俺の子供じゃない。他山が妊娠していたのは」

「・・・は、い?」

「俺が逃げたのは、端詰学長に脅されていたから。あいつが獄にぶち込まれたからこそ、今上野にこうやって話せる」

「・・・」

「話していいか?ひとりで抱えるの、きついんだ」

「きつい・・・」

「そうだ。きつい。余りにも」

「ー私で、良いんですか?ゼミの爪弾き者ですが」

「良いから、聞け」

「・・・はい」

「ゼミで俺が逃げ出したのは、あいつー端詰のしたことを、俺が知っていて、恐怖したから」

「はい?」

「端詰は、他山と中村を犯した」

「・・・は、い?」

「あいつはそう言う奴だ。その結果、他山は妊娠して、中村はそうならなかった」

「・・・そうなんです、か」

「最終的には、上野、お前にまで手を出すつもりでいたんだぞ、端詰は」

「・・・そうです、か」

「論文をあいつが見ることになっていただろ?それからして、あいつは仕組んでいた」

「はい」

「中村は、耐えきれなかった。端詰のスキャンダルに巻き込まれる形になったからな」

 

 傍目、いやここは傍耳と言うのだろうか。別田の話していることは被害妄想とか関係妄想みたいなものにしか聞こえなかった。こいつも頭がいかれていて、テキトーに思い付いたことを口にしているだけ、その様な。

 私は考えが攪乱された。

 何が正しくて、何が間違っているのだろう。

 

 

「別田さん」

 私は言った。

「何だ?」

「私、さっき、ゼミの論文が哲学科長から最優等評価を貰ったと連絡がありました」

「反対だな」

「反対?」

「状況が引っ繰り返った。端詰は、上野にも誰にも単位を与えるつもりなんて無かった。但し、うちのゼミの人間は、それぞれに必死だろ?特に女子は。そこだけ良かったらしい」

「そこ?」

「必死なところ。端詰はそう言う学生を食ってるんだ」

「では、外部教授は、」

「それを気に掛けて事故死した、と俺は考えている」

「・・・どうして、別田さんが、そのことをご存知なんですか?」

「俺は―大学院受験の際、調べ尽くした。うちの大学のことを」

「・・・そうしたら、こういう話が出てきた、と言うことですか」

「本気で調べれば出て来るぞ?情報は漏れてくるものだ。下手に哲学文庫うろつくよりも」

「もしかして、別田さんも、私と下北さんの件、ご存知で?」

「他山も外部教授も端詰も、皆知っている。中村が言い触らした。だから俺は中村が嫌になった」

「・・・それで中村さんの人間性が低い、って話になったんですね」

「そう」

「・・・その考えは、正しいですね。きっと」

「他山が上野を嫌っている、って話もしていたがな、中村は。あれもどうだか分かったものではない。中村、あいつは頭がおかしい」

「・・・私は、その中村さんから、やれ異常人格者だ、やれ頭がおかしいと言われましたが」

 

 これは悪夢、負の循環、メビウスの輪だ。

 死に至る病が、ゼミの中を循環して、互いの脚を食い繫いでいる。

 

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