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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(30)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

 突如辞職させられた端詰の緊急代打者として、学長を現在の理事長が務めることとなった。そいつは大学創始者の曾孫にあたる婆さんで、頑固で金遣いに厳しい、ひと言でいうとケチだと有名。しかも学が無いらしい。創始者一族だからと言うことで、H学院に特別優遇されて入学し卒業した、と言う噂が専ら。学内では、白髪に無理やりウエーブを掛けた髪型が、ギリシア神話の老いた悪魔を連想させると言う話も漂っている。

 その老婆に私は呼び出された。

 

 理事長室の扉には、『理事長』『仮学長』の二つの札が掛かっている。

 私はそれをノックして開けた。

「こんにちは。上野さつきです」

「ああ、上野さん?私のことはご存知よね?」

「はい」

「当然知ってると思うけれど、今回の事はうちの学校にとって、大打撃になってる。スキャンダルってやつ」

「そうですか」

「これはあくまで噂なんだけど、外部さんと端詰さんを亡くならせた理由は、あなたにもあるらしいってね」

「そうでしょうか」

 私は思い切りしらばっくれた。

「噂は噂だから、私にはそれについて言及出来ない。でも、あなたは論文をきちんと提出されてね。あれは評価するわ。行動として」

「そうなんですか」

「あなた、さっきから適当な返事ばっかりしてない?もっと主張したらどう?」

「そうですね」

 主張、と言われても、こいつが私に何を求めているのかが、これだけの会話情報量で分かったものか。

 取り敢えず、私はこう返した。

「御用はそれだけですか?でしたら今、春期休暇に入っていますし、私はお暇させて頂きますが」

 老婆はきつく私を睨んだ。

「聞きなさい。スキャンダルが起こった以上、私は何かしら学長として引責しなければならない。だから、あなたに退学勧告を出します」

「は、い?」

「あくまでも勧告は勧告ですから、強制はしません。あと、伝達なんだけど、端詰ーいえ、外部ゼミに在籍している学生は、あなた以外全員論文を出さなかったのよ」

「・・・それは、先輩方、皆さん卒業を見送ったと言うことでしょうか」

「そう言うことになるわね」

 

 沈黙が訪れた。

 

 数分後、私は考えをやっとまとめ、口を開いた。

「でも、それで私が退学と言うのは、冤罪と言うか、濡れ衣を着せられているのと同じではありませんか?証拠も無いのに、そう言った発言はお断りさせて頂きたいです」

「だから勧告しているのよ。論文は哲学科長が採点します。その結果で単位が取られなかったら、退学を考えなさい」

「それは、学長命令ですか」

「そう」

 

 私は急騰するみたいな勢いで、こいつを嬲り殺す自分の姿を想像し、笑いが出そうになった。どうやら私がサイコパス、異常人格だと言うのは、外部と他山、中村の見解通りらしい。

 そう言えば中村は事件の報道の後、どうなったのだろう?

「あの、端詰学長ーいえ、端詰さん、でもう良いですよね?と一緒だった女子学生とは、中村梓沙さんで間違いありませんか?」

「それを話さなければならない?」

「一応」

「まあ良いでしょう。ニュースでゼミ生の女子、って言ってたからね。あなたでなければ中村梓沙しか居ないのは一目瞭然」

「・・・そうですか」

 私は端詰と中村が寝ているシーンを想像した。

 魔法使いめいた貫録を発す爺さん博士と、太り気味でもビジュアルだけにはやたら気を遣い、値段の高そうな服ばかり身に着ける女子大生。そのふたりが交わる場面は大変に気持ちが悪いと言うか、ふしだらと言うか、グロテスクな感じがした。

 中村よりも私の方が、見た目については格段上なのは周りも暗に認めている。何故ならそれは、言い寄って来る男の数で分かるから。私には年に数人、好きだ好きだと言ってくる異性が絶えない。寧ろそれを追い払うのが大変。

 それに加え、中村は自分からこう言っていたではないか。

「私はいつも、独りきり」

 

 そうか。分かった。

 中村は寂しかったのではないだろうか?

 男に飢えていたのでは?

 その結果、私をひがんでいた。

 

 だから、端詰を自分のものにしようとしたのでは。

 

 私は理事長室、兼、学長室を後にすると、笑いが止まらなくなった。春期休暇中のサークルやクラブに来ている学生が驚いた顔で振り返っては、気まずそうに目を逸らす。そもそも私が学長に個人で呼ばれている事態からして、皆はこいつ、外部殺しの上野さつきがまた何かやらかしていると思ってしまうものだと憶測するが、如何なものだろう?

 まあ、他人なんて私はどうだっていい。

 

 

 後期試験の単位は、可の評価が殆どだったけれども、奇跡的にちらほら優等評価もあり、危惧していたまでに悪い出来ではなかった。単位は一つも落とさずに済んだ。

 そして論文は、何しろゼミ内で提出した者が私だけなので、個人的に哲学科長から採点結果が電話で私の元へ来ると連絡があった。日にちはここ数日内。随分とアバウトな期日設定の仕方だけれども、それまでに私は退学か進級かの腹を括らねばならない。

 これは綱渡りだ。

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