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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(28)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

「他山さんは、あなた、上野さんのこと、本当は大嫌いなのよ?」

 

 中村が勝ち誇ったような、卑下しているようにも見える目で私を捉えた。

 

「・・・はい?」

「他山さんはあなたを嫌っている。すっごくね。そういう事」

「他山って、他山恵?」

「決まってるじゃない。それ以外誰が居るのよ」

「じゃあ、今までの他山さんの言動は何ですか?私の事えらく馴れ馴れしく扱っていましたが」

「それも訊きたい?本当にあなた、崩れると思うけど?」

 

 いいじゃん。上等だよ。崩してみろよ。

 言いたかったけれども。

 私は思えなかった。

 

 怖かった。

 他人の真意を聞くのが中村の言う通り、怖かったのだ。

 でもそれを言わないし、言えない。すると負けを認めることと同等になると思う。中村、ひいてはゼミ生がごときに自分を崩壊させるなどと言うことは、自己を堕落させることに等しい。

 それは嫌だ。

 でも、私は嫌だ嫌だと言いながら、地雷を避けて今まで生き延びている気もしてならない。一回地雷を踏んでみたら、私はどのような爆発の仕方をするのだろう。皮膚と脳漿と内臓と血液が飛び散って、自分の欠片のみ存在したことになるのだろうか。

 それは大変に素敵だと思った。

 

「・・・言ってみてくださいよ」

 私は吐き捨てた。

「言えば良いじゃん?崩れて死んでやるさ?それでお前は満足か?中村さんよ?」

 次々畳みかける私に、中村は怯んだ。

「死んで、なんて私は上野さんに一言も言ってないけど、」

「言ってることと実行して欲しいことが重なって見えるんだよ、あんたはさ」

「そうかしら?」

「そうに決まってるだろ!何能天気に言ってんだよ」

 首をすくめて、中村は小さく発した。

 

「他山さんは、あなたのことキチガイだって言ってる」

 

「え?」

 

キチガイ。気が違ってるって」

 

 

「どういう理由ですか?その差別的発言」

「あなたは、言っていることと実行していることが矛盾しまくっているの、気付いてない?少なくとも傍目にはそう見えるわよ」

「へえ?具体的には?」

「哲学文庫、下北くん」

 私は記憶を手繰り寄せた。秋の初め。哲学文庫にて下北との後。

 中村に私はこう言われていた。

 

「目が笑っていない」

 

 私はいつも笑わない。笑えない。それは正だ。けれども、自分の中では笑っているのだ。他人からはそう見えるように、必死に演技しているのだ。

 

「・・・それ、下北さんに、犯されたことですよね?私が」

「犯されたとか言わないでよ!私の前で!」

「そうか中村さんは下北さんが好きでしたね。下北さんと私をくっつけようとまでしていらっしゃった。これは只の私の憶測ですけれども、下北さんに良く思われたい余りに」

「うるさい、」

「別田さんと手を組んでまで。でも、結果的にあなたは別田さんを裏切ったんですよ?あの人、あなたのことが好きなんですから」

 間髪入れずに中村は、受話器の向こうで叫んだ。

「知ってる!」

「・・・知ってる?」

「知ってるわよ!」

「・・・おやおや」

「知ってるけど、別田くんは他山恵に走ったのよ!私だけがいっつも独りきりで、」

「何ででしょうか?他山さんに走ったのは」

「私の世界が、あまりにも次元低いからって。自分ー別田くんには不釣り合いだって言うことでお終い」

「次元低いって、それって、あの体型と食欲、の発表内容とか、」

 私の癖が爆発しそうになった。他人が真剣な時、バカにしたくなるこの癖。私は笑いを堪えられない。

「あんた次元、って言うか、人間低いな」

 私は喉元を引き攣らせながら、辛くも言った。

「それはあなたも同じ。キチガイのくせして偉そうに」

「へえ?じゃあ精神科、行きましょうか?精神病院、入りましょうか?どうでしょう?」

「もっと言ってあげる。外部先生は、あなたのことサイコパスだって仰ってた」

サイコパス

 異常人格者。その言葉が連鎖して浮かんだ。

 そう、サイコパスとは常軌を逸した性格を持った者のこと。

「外部先生が、私を、異常人格と?」

「そう。外部先生は心理学を哲学と一緒に学んでいらっしゃってね。あなたのことが見事に当てはまるってゼミの皆に話されてたのよ」

「へえ。亡くなった人の事をこう言っては何ですが、自分の受け持っている学生を異常とか評して良いものですか?」

「それだけ自分はおかしいって気付かないのが、サイコパスの特徴なのに」

「私は、自分がそうだと、今、自分で暗に認めているってことですね?」

「そう」

「そうですか」

 

 沈黙が流れた。

 ムカついた。

 納得出来なかった。

 私が異常?そんな訳があるものか。私はいつも自分の頭で考えて、行動して、結果を受け止めているだけだ。その過程の何処が変だと言うのだろう?

「人の事をそう断定するの、自分の気分が悪くなりません?」

「だからあなたは崩れるのよ」

「私はどうでも良いですけれど。皆がどう私を言ったとしても」

「そうやって突き放して、何か見返りがあるの?」

「見返り?私にですか?あったとしても、あなたに言う義理はありません」

「固いものは、崩れやすいのよ。これ、上野さつきのこと」

 

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