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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(25)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

「・・・別田さん、ちょっと顔色が悪いですよ」

 私は、恐らく自分の予想している答が当たっているだろう、そう言った予感を持ちつつも、言った。

「・・・そうか。悪いか」

 別田の顔は更に青く荒んだ。

 他山の嘔吐は廊下を通じて教室へと響く。

「こういうことを言っては何ですが、別田さん、私を責める権限、きっと無いですよね?今は」

 私は婉曲しつつ、「あなたはもしかして、他山恵を妊娠させたのでは?」そう言ってみた。

 すると、初めて別田は、私の前で涙を浮かべた。どうやら私の酷な暗喩は伝わったらしい。伝わったと言うこと、それは本人に思い当たりがあると言うことだ。

「無い、かも知れないな」

「そうですか」

「ああ」

 他のゼミ生ふたりが黙って私達の会話を眺めていた。

「上野さんと別田さんと他山さん、何かあるんですよね?教えてくださいよ」

 下北が率直に言う。

「そうよ。ゼミの仲間でしょ?私達」

 中村はこんな時だけ都合よく、仲間のカテゴリを創作する。

「・・・別田さんの表情と、他山さんの現状を見て、把握できませんか?あなたたち」

 私は冷たく言い放った。それに反応して、別田が大声を上げた。それは悲鳴と言って良いものだった。声にならない声。絶叫。

「おれおれおれおれ、人生が狂う、人生が、大学院、院、入試、受かったのに」

 切れ切れに発音する別田。

「え?」

 私は初耳だった。別田は既に大学院へ合格していたのだ。そう言った情報、一切私の耳に入って来ていないのだけれども。

「別田さん、落ち着いて。どうしたんですか。大学院が関係あるんですか、今!」

「そうです、大学院は逃げませんから」

「いや、こんな、状況、教授からおれ、放校させられる」

 大学院に受かった、その発言には何ら驚かず、他のゼミ生が口々に発する。これを聞いて、ああ私抜きでこの人達情報交換し合っていたんだ、そうも私は勘付いた。

 それで完全に、端詰ゼミで何かしらもやる気が失せた。

 ここに居るの、嫌だ。

「皆さん、落ち着いてください。現在と気持ちを整理しましょう」

 すっかり私達に存在を忘れ去られていた端詰が言う。仮に、今まで発する言葉を失っていたのであるならば、こいつが学長で居る権限は、一体どこから来るのだろうか?私の中で素朴な疑問が生まれた。

「先生、どうか俺を、放校だけはやめてください、お願いします、」

 端詰は別田を手で制した。

「別田君。他山さんは、君の影響で、嘔吐している・・・それでいいのかな?」

 別田が言葉を失った。

 

 女性が男性の影響で、嘔吐している。そして男性が、取り乱す。

 

 これだけ聞けば、大抵の成人が、何を想起するかは分かったものだろう。中村と下北も流石に理解したらしい。ふたりとも黙りこくった。

「別田さん。これであなたは、私のことをとやかく言えませんね?でしょうよね?」

 常時石頭の神、そう形容すれば相応しい位に固く偉ぶっていた別田へ、私の逆襲が始まる。

「おれおれおれ、別に、そんなつもりで、恵を」

 

 恵!

 

「呼び捨て!」

 私の脳内と中村の表情、下北の驚愕が一挙に反応した。

 完全に墓穴を掘った別田。人間とは理性を失うと、ボロを零しまくるものらしい。

「別田君、君は少し、話を私とした方が良さそうだね。来なさい」

 すべてを見ていた端詰が、辛うじて理性を保っているだろう声で言う。

「い、いやです、話したくありません、」

「あなたの恐れていることを避けるには、学長の私と話をする必要があると思いますが?」

「いやです!」

「来なさい」

「・・・」

 項垂れて別田は、端詰に腕を引かれて学長室のある棟へと歩を進めていった。その足取りは、縺れて今にも消えそうだった。

 

 私と下北、中村は突然且つ意外過ぎる出来事に、ただ無言。

 

 他山が手洗いから戻ってきた。ハンカチで口を押さえている。

「別田さんと、先生、は?」

 その他山の問いかけに、中村がキレた。

「あんた別田君とヤッたの!」

「え?え?え?・・・ヤッた、って、」

 しどろもどろに応答する他山。

「あんた寝たの?別田君と!」

「寝たって、それって、」

「あんたいい大人でしょう!」

「・・・はい。そうです」

 これには私ですら、口を挟まずにいられなかった。

「で、妊娠しているって捉えていいのかな?今のは、悪阻だよね?」

 敬語も忘れて、タメ口で思わず問うた。

「・・・さつき。ごめん。私人の事言えない」

 私は本当に妊娠していた訳では無い。だから、他山に何のレスポンスも返せなかった。

「・・・産むの?下ろすの?子供」

 別の質問を私はした。

「・・・テニスできなくなるから、下ろす」

 

 下北が椅子から立ち上がって、他山を瞬間に殴りつけた。

「お前、人間の命とテニスとどっちが大事なんだよ!」

 絶叫した下北。

 こればかりは、いつも抜けているこいつの言うことが、正しい。

 そう私は思った。

 

 けれども次には、それってお前が言えることか?そう思った。

 今の行動には、自己正当化に近いものがあるのでは?私を避妊なしで犯しておきながら、他山を殴って命の大切さについて叫ぶ。完璧に矛盾している。

 もしかしたら、このゼミ、おかしいのではないだろうか?

 私の中では自分も含め、全員に対して、そう疑惑が生まれた。

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