読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(24)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

 端詰は口を開く、その辺りに落ちているクズを蔑む感じで。それに対し私は、そうです、自分はリアルにクズだけれども、何か?そう思いつつ、端詰に向かって小首を傾げた。

「上野さん、あなたの醜聞は私の耳にも当然入っています。しかも目の前でその発言ですか」

 当然、しかも―いかにも、決めつけられたニュアンスの表現に対し、私は脳内が瞬間に自棄の怒りへと沸騰した。

「醜聞?知りませんね。どういうことですか?」

「私が直接それを告げなければいけませんか?あなたが一番ご存知の筈でしょう」

「知らないから、訊いているんです」

 いじめられていた頃の担任とのやり取りが私の脳内にフラッシュバックする。

「今の言葉遣いと言い、あなたの行った事柄と言い、本来なら上野さんを退学処分にしてもおかしくない」

「では伺いますが、先生は何故私をそうしないのです?」

「言わなければなりませんか?」

「訊きたいから、私は訊ねているんです」

「・・・確認が出来ないからですよ。その一点だけです」

 

 ビンゴ!

 

 私は心の中で両手を打ち合わせた。軽く弾ける音が鳴る。

 そう、そうなのだ。私は誤算をしていなかった。裏を取られるようなミスは犯していない、今の今まで一度も。性交説にしろ、妊娠説にしろ、中絶説にしろ、その他すべて、証拠を残していないのだ。やはり私は自他共に認められよう、頭が少しは回るらしい。

 いつからか失っていた自信が自身の中に復帰した。

 自分は自分のしたいことをしているだけなのだ。

 決然と端詰の目を見て、私は口を動かす。

「確認が取られないのに、どうしてそうして私を責めることが出来るのですか?先生」

「では逆に上野さんに訊ねますが、今の中村さんとの会話内容はどう説明されるのでしょうか?」

「中村さんと私の関係を、先生は何もご存知無いからそう言う事を言えるのですよ」

 詰まる端詰。

 これ、これなのだ。他人を追い詰めて破綻させていくスリルとカタルシス。私はどうやら、もしかすると、恐らく、これを欲求していたのではないだろうか。死に至る病の発端にしろ、下北のみならずゼミを混乱に陥れたことにしろ。

「先生、いえ、学長」

 がくちょう、と念と力を込めて発音する。

「不確実な情報で他人を責めるのは、冤罪に掛けるのと一緒ですよ」

 端詰は、私の目から視線を即座に逸らした。きっとそうせざるを得なかったのだろう、一呼吸置き、気を取り戻したらしき間が見られた。そして端詰は発した。

「・・・今から、特別ゼミナールの説明をします」

 そうして新しいゼミは始まった。四年生が卒業し、年度が変わる、今年三月までの残り二か月少しの。

 

 私は相も変わらず、死に至る病を考えている。

 自分の死、こちらも相も変わらず、考えている。

 しかし端詰をやり込めたことで、やはり人間とは誰しも精神的なショックに陥るものだ、そう言う事実も再確認した。とは言え、もう私には他人をどうこうして殺してしまう、そう言ったことまではしようと思えなかった。

 満足してしまったのかも知れない。

 何故なら外部を私が殺したから。

 認めよう。確固たる因果関係は確立されてはいないけれども、私ですら確信するものがあった。

 事故のタイミングと言い、周囲のレスポンスと言い、学内のテンションと言い、どれもすべて私に関連がされているのは明白だ。誰もそれを面と向かってはっきりと処罰出来ないのは、明白な証が無いからに過ぎないから。もしあったとしたら、以前の私が空想していた様に、メディアや他の学生、その他大勢の野次馬が私の元に来て、今この瞬間、とやかく偉そうに断罪していることだろう。

 でもそれが現実になっていないと言う現実は、私の計画は成功を収めた、そう判断して良いものではないだろうか?

 私の口角は、自分でも訳の解らない力にて、気味悪く上がった。慌ててそれを無理矢理下げ、端詰を、相手にすらしない醒め切った目で見る。もう単位なんていらない。論文が書けて、それが端詰以外の誰かに認められれば、それでいい。

 

「ですから、私は自分の衝動を昇華するにあたって食に向かう必要があり、」 

 ゼミの途中、中村が自らの体型コンプレックスと食への欲求の関連、つまり自分の体系的かつ体型的哲学らしきものを発言している途中、他山が突然席を立った。

 他山の座っていた椅子が派手な音を立て、リノリウム張りの床に転がった。

「他山さん?」

 突然の出来事に、端詰が首を傾げて言う。

 他山は口を手で押さえ、無言で教室の扉を大袈裟な音と共に開け、手洗いのある方向へと走って行った。

「何なのでしょうね?他山さん、腹痛でしょうか」

 中村が怪訝として言った。

「悪いものを食べたのではありませんか?きっと」

 下北も中村と同じ表情にて言う。客観的にもし自分を見られるならば、私も同じ表情をしていたことだろう。

 しかし、別田だけは違った。

 別田は走り去っていった瞬間の他山と同じ、青ざめた顔をしていた。

 私はその顔色を見て、別田の恐怖が瞬間に伝播させられた。

 

 手洗いの方向から、他山が嘔吐する音が聞こえて来たのだ。

 

広告を非表示にする