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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(23)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

  外部の死は、文学部哲学科三年生の女子学生、上野さつきに因るものだと言うことは、ゼミ生のみならず学内に拡散した。それはつまり、私が病的に嘘を吐いていると言う事実が広まっているのと同じことだ。

 私は静かな話題となっているその大袈裟な雰囲気を、至って冷静に捉えていた。だからこそ相変わらずのこんな状況判断が出来ているのではないか?ああやだわ、メディアとかが私にインタビューしてきたらどう答えようかな、そういう予行練習まで脳内で行う始末。他山の言っていた「罪の意識に囚われている」さつきさんは何処にも存在していなかった。

 

 思うと、これは私の感情が分裂した結果、動けなくなった果てだったのかも知れない。私はこの頃から論文執筆にのめり込み、碌に食事も食べなくなった。せいぜい良くて液体を体に流し込む程度。流動食の下を走っている。

 

 体重と思考が陥没していく毎日。

 精神と肉体も埋没していく日々。

 このままだと私は破壊されるだろう。

 

 

 冬期休暇が終わり、ゼミは外部の代わりに新しく誰が受け持つのか、私は知らされないままいつも通りのテンションで五百四号室へ入った。

「ご無沙汰しています」

 私の空々しい挨拶に答える者はいない。

 と言うより、正確には教室に人はひとりも居ず、外部の荷物もすべて引き払われていた。

 空っぽになった部屋にて、私はひとり思い出した。

 昔同級生に無視された光景を。

 

 音楽の時間だったと思う。教室移動が決まっていた。けれども私だけその連絡を知らされず、結局ひとり時間の直前になって音楽室に駆け込むと、そこには誰も居なかったのだ。

「あ、れ?」

 私の独り言は虚しく浮かんで宙に消えた。

 皆どこへ消えたのだろう?先生はどうして何も言わないのだろう?

 黒板を見ても、何も書かれていない。寧ろ何か書かれて消された跡が、白墨の粉としてこびり付いていた。

「どうしよう・・・これ」

 言いながら、私は職員室の担任を訪ねた。担任は事情を聴いて「そう言う事か」と言わんばかりの顔をした後、口を開いた。

「上野さんは、言う事がストレート過ぎるからこうなるのよ。もっと自分を抑える訓練をしなね。じゃないとまた同じことが高校で起こると思う」

「は、い?高校ってことは、中学ではもう取り返しがつかないってことでしょうか?」

「あなたが今直面しているのは、あなたが招いた結果でもあるのよ。率直な行動が堂々巡りしているだけ。それを直さないことには、クラスの皆は上野さんを受け入れてくれない」

「それは、私が全部悪いってことですよね?先生がおっしゃりたいのは」

「そんなことは言っていない。クラスにも、上野さんにも、問題がある」

「先生は担任でしょう?どうしてそれを放置するんですか?」

「放置してなんかいない。だったらこうやってアドバイスする訳がない」

「・・・意味が分からないです。お話しされていることの」

「とにかく、あなたは行動が猪突猛進的すぎるのよ!だから皆があなたのことを煙たがってるの、分からない?」

「・・・分からないから、いじめられているんです」

「いじめ、っていう認識からして、それ、考えすぎ!もっと自分を律しなさい」

「・・・分かりました。そうすればいいんですね?」

「そう」

「クソ死ね雌豚」

 それから私は、他人へ心を遮断している。

 

 どうやら、この記憶と同じ状況に当て嵌まる事態が、現在目の前で起こっているらしい。ゼミの皆さんは、私を置いて何処かへ消え去った。それは正しい認識だと思う。授業時間や教室が変更になった、そう言う情報を思い返してみるが、一切目にも耳にもしていない。

 鞄の中の電話が振動した。取ると、メッセージが入っていた。

「上野さん 誰も連絡していないと聞いたから、する。ゼミは端詰先生の研究室で行われる 別田」

 せめてもの敗者への哀れみかよ。私はそう感じて、率直にそう呟いた。久し振りに本音を吐いた気分になった。

 学術研究所の入り口にて建物の内部構造を確認すると、端詰の部屋は百一号室、つまり一階の、一番入口寄りの最も大きな部屋だった。皆そこに白々しく入っていて、私だけが食欲不振且つ体調不良の状態で息を切らしながら、四階まで登らされたらしい。

 いじめじゃね?これ。

 思ったが、以前とは違う感想が私の中に生まれていた。

 

 すること幼稚なんだよバーカ!

 

 私はその思いをあからさまに表出した顔で、百一号室のドアを力任せ音立てまくりで開けた。もう学長がどうとか、ゼミ生の反応がこうとか、何でも良かった。テキトー。

 単位取れなくてもどうせ私三年生で卒論書かないし?来年度ゼミを異動して、頑張ればいいだけの話。まあ、学内で私が殺人犯扱いされている風潮を考えると、全部私の大いなる幻影に過ぎないんだけども。死ね皆死ね私だけが生きろ。

「うるさい上野さん」

 中村が音を立てた私に対して、汚いものを見るような目をしつつ、言った。

「何だ姑息な真似しといてよ。お前がそう言う事言える訳?」

 私は鼻で笑った。

「先輩に向かってその言い方は失礼でしょう」

「うるせー。お前こそうるせー。こんな低級な生物に私の事あしらわれたくねー」

「はあ?何!?」

「哲学とダイエット?その体型とビジュアルでアパレル志望?はあ?世間舐めてんじゃねえよ。そこを低級、って言いたいんだよ、私はよ」

「世間舐めてるって、あんたこそそうじゃない」

「うるせー。何回言わせれば分かるんだよ?私は自分の意志で行動してるんだよ。お前、いやゼミの皆さん?みたいな固定観念囚われすぎの人たちとは違うんです」

 教室がざわついて、口々に反論が起こる。

「上野、言いたい放題じゃんかよ!」

「自分のこと棚に上げいでよ」」

「うるせーのはあんたもだろ」

 

 そこで一人、立ち上がって静かな重い響きを口論へと投げかけた。

「上野さん。私の前でそういう会話を広げることは慎みなさい」

 端詰誠学長だった。

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