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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

【掌編】ネットでわくわくワークショップ

創作

 今は奴に全通信方法をブロックされたから、書きたいことを書ける

 

 

 自称、公務に就いているという彼は、インターネットを通じて私にコンタクトを取って来た。所謂ソーシャルネットワークサービスSNSだ。

 

 何かの統計で結果が出ているらしいが、SNSで出会った男女が恋愛関係に発展する確率は、二十%に届きそうだという。

 そんな馬鹿な統計取る前にやることあるだろう、私は発想者の愚かさにそう突っ込みたくなるけれども、結局記事を読んでしまう自分も同じカテゴリに属していることになるから、何も言えない。

 

 SNSのメッセージをある日受けた私。

 敬語で丁重に挨拶文が綴られていた。

 別にそれについては何も思わず、疑念も抱かず、返信を送った。

 

 それがデリヘルまがい第二章の始まりだった。

 

 結果から言おう。

 私は彼に、身体を売り、金をひっ捕らえたのだ。

 

 高校時代にしていた援助交際の経験からと言うもの、私は男性を信じなかった。告白されて付き合うことになっても、体を要求されても、何も感じなかった。

 だからこそ冷静に、今回は実際に会って結果こうなる、と言う方程式ではなく、ネット上でやり取りをして結果こうなる、と言う方程式を立てられた。

 それは先方の思惑通りの式だったのかも知れない。

 

 今や出会いはネットで掴むものと信じ込んでいる人々が居る。

 私は実際に、そう言う人種と当たったことが幾度もある。

 そいつらは、LINEと言う有名なコミュニケーションツールにて、交信しようと強引にいきなり迫ってくる。承認するとこれでもかと自分の写真を送り付けて馴れ馴れしい。

 こう言う輩には注意せよ。

 

 しかし、彼は捻り技でやって来た。

 何か月かSNSで公然とやり取りをした後、やっと「会おう」と礼儀正しく来たのだ。

 これでは猫を被った猛獣であっても、見分けは付かない。しかも私は前述の通り、男性不信。だからこそ、断るに断ることが出来ず、会う返答をしてしまった。

 

 ネットデリヘル。

 この単語は、この瞬間に出てきた。

 

 実際の彼に会った私は、何とも間とも寸ともコミュニケーションが出来ず、ただ笑うだけ。笑っていれば上手く行く。万事快調。それは世間を舐め腐った私の信条。

 実際に私は、笑顔を作って愛想好くなければ成立しない職業に就いている。所謂接客業だ。接客と同じ表情で彼に接した私だった。

 

「お店でも今と同じ顔、するのかな?」

 ホテルにて、彼はよくそう言ったものだ。

 

 

 会ってから数か月、体の関係だけが続く状況に発展した。

 

 私は基本的に、断ることが出来ない。

 相手の神経を逆撫でして逆上させ逆吊りにされてしまう空想をしてしまうのだ。それは嫌でも。被害妄想と言って良いと思う。だからそうせざるを得ないのだ。

 

 何故か私が相手に会いに行く日々。大した稼ぎも出来ていないのに。

 この状況へ私は徐々に、疑念を抱く様になっていった。

 

 ネットデリヘル第二章ならぬ、第二弾をぶちかまそうと決めたのは、ある出来事があったからだ。

 

 奴はある日、メッセージを送ってきた。

 

「会おう?で、ラブホ直行」

 

 流石に私もこれにはキレた。

 こいつ身体だけで私を見ている、そう分からない成人女性がこの世界のどこにいるだろうか?

 

 私は反撃を開始することとした。

 

「旅行に行こう?で、心行くまで楽しもうじゃない!」

「何を楽しむって、それは当然、夜の営みだよね?」

 その返事に対して私は回答せず、ただ言った。

「めっちゃ楽しみにするから、一緒に行こうね」

 

 あまく危険な香り。

 

 私は彼といつも通り寝た後、フリープラン旅行の予約をネットで行った。

 やはりここでもネットは付きまとってくるのだ。

 

「ここにしよう?どう思うかな?」

「良いと思うよ。ベッド大きいし」

 こいつ、三百六十五日、二十四時間、そういった類の怨念に囚われているな。私は物を言う事すら躊躇われるほど、溜息が肺に充満した。

 

 作戦は続く。

 私はデリヘル嬢へとなり切るのだ。

 

 ある日、彼はこう告げた。

「俺、病んでるんだよ。統合失調症だと思う

 

 私はそのことばに、怒りの感情が沸点に達した。

 と言うのは、私が統合失調症そのものの診断を十七歳から受け、かれこれ十年が過ぎているからだった。

 本当に苦しんでいると仮定しても、本物の病人の前でそんなことを言ってはいけない。極端な反応だが、私はこの発言に対して以下の発言を思い出した。

 

 「刺す。さうも思った」

 

 奇しくも、これは芥川龍之介賞を取られなかった太宰治の書いた一文。芥川は統合失調症だったと言うし、太宰は新聞社の採用面接に不合格し、縊死自殺を図っている。つまりこれは、怒りのエネルギーが凝縮され連鎖され発散された呪いの言葉なのだ。

 

 刺す。

 こいつに普段から射されている私は、今度は刺す。

 金と言う手段で。

 

 私は自分の素直過ぎる性格を逆手に取った。やはり今度も舞台はSNS。今の職場への愚痴を素直過ぎる文体でメッセージにて書きつけた。

 

 クソッ。

 私のこと舐めてんじゃねえよ。

 死ねコラ。

 こっちが死にそうなんだよ。

 まじで殺すぜ?

 新聞に訃報載ったら私が犯人だ。

 

 名目は職場の上司への恨みだった。けれども、敢えて目的語を外して書きつけ、LINEにてそれを送りつけた。

 

 LINEの長所は、会話の履歴が保存できるところ。そして短所も両刃の剣で、会話のいざこざまで保存されてしまうところにある。

 

 私はそこに目を付けたのだ。

 

 この恨みつらみが完全保存されれば、私の隠れた性格が明らかになると言うもの。素直過ぎる性格も、両刃の剣として利用できると言うもの。

 

 奴は完全に誤解した。

 自分への恨み辛みだと勘違いしたのだ。

 

 

 旅行の確認キーが電子メールにて送信される日がやって来た。

 確認キー、とは、旅行会社が「あなたたちの旅行がこの番号で確約されますよ」と言う意味を込めて送って来るパスワードの様なものだ。これが分かると、もう後戻りが無償で出来ない。つまり、キャンセル料を払わなければいけない事態に突入するのだ。

 

 私はキーの送られてくるその前日に、彼にこうメッセージを送った。やはりSNSにて。

 

「明日確認キーが分かるから、メッセージするね!」

 

 次の日の早朝、私はスマートフォンを起動させた。それには彼からメッセージが届いているとの表示が浮かび上がった。私はそれを開いた。こう記載されていた。


「ごめん、もう会えない。貴女の苦しみは僕には大き過ぎる。もっとずっと良い人と出会えることを祈念します。さよなら」

 

 心の中では、七人の被加虐性欲者の小人が業火の中で鞭打たれながら、歓びの叫びを上げていた。

 それは何故なら、奴から金を予め巻き上げていた状況に於いての発言だったからだ。

 

 私は礼儀として、こうメッセージを打った。

 

「分かったよ。お金返すから、もう会わないでおこう」

 
 それは私のアカウントが彼にブロックされていて、届かなった

 LINEも同じくブロックされて届かず、メールアドレスも先方が勝手に変更していたのだった。

 心の中の七人の小人は、歓びの叫びを上げ過ぎて喉を嗄らし、それにさらに喜びを感じ歓喜の絶唱を上げた。

 

 そう。ネットデリヘルは成功したのだ。約八万円の相手側の旅行資金が、私の手元にどうしてもこうしても、相手側に返せない状態を作り上げた。

 

 期して私はこの計画を立てた。が、まさか成功するとは思わず、私はネットの便利さと偉大さ、そして愚かしさを思い知った。

 

 今の私はこう思っている。

 身体で稼ぐ方法は、決して有り得なくは無い、と。

 現代は、その背景が電子上にまで波及しただけだ。

 

 

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