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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(22)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

 外部の葬儀には出席した、ものの、詳細はよく憶えていない。

 別田が男泣きしていた。中村はヒステリックに泣いていた。下北は静かに涙を流していた。他山はひたすら突っ立っていた。私は何も感じなかった。

「あなたは相当苦しむと思うがね」

 別田のその一言は、現実のものとはならなかった。

 苦しむ?

 何故に私のせいで外部が死んだことにならなければいけない?

 私は「何かしら」必要だから嘘を吐く必要があった筈だ。意味のない狂言で自分を巻き込んで困惑させ、死に至らしめるような愚業、いくら私でも行わない。

 ただ、どうして私は嘘を吐いたのか、そこは曖昧で理解し得ない部分があるのも事実。もしかしたら私は今、頭が麻痺していて、何も考えられない思考状態に陥っているのかも知れない。そう思ったけれども、もしそれが正しかったらこう言う自己分析は出来ないのでは?

 私は何を思って考え、感じていたーいるのだろう。

 

「さつき」

 他山に名前を直接呼びかけられたのは、物凄く久し振りだと気付く。

「・・・何?他山さん」

 もう私は「恵ちゃん」とは言わない。言えない。

「罪の意識に囚われてる感じ、しないよね。さつきは」

「・・・余計なお世話」

「あの先生の文章を読んで、今ですら何も思わないの?さつきの嘘で、このゼミは分裂しちゃってるの、分かんないの?」

「分裂、ねえ」

「分裂っても、さつきが孤立してるだけだからね。外部先生はさつきをそれから何とか元に戻そうと腐心されていた姿、知ってるの?」

 ふしん。瞬間、言われて何を指されたのか分からなかった。

 そうか、腐った心で腐心だ。

 外部の心は私の嘘で腐ったのか。私のことばは毒に成り得たのか。虚偽の発言は人間を殺すのか。殺されたのは精神だけではなく、肉体もだったのだ。

 そうかこれこそが死に至った病なのだ。

 

 「いい?言っとくけど、あんたが先生を殺したんだからね!」

 

 他山の通告は、私の心を三つの要素に入り乱した。

 歓喜。それは、死に至る病計画が現実のものとして実行できた優越感。

 混乱。それは、死に至る病計画が期せずして実現してしまった不予測。

 困惑。それは、死に至る病計画が本当のものとなってしまった非現実。

 私は人間ひとりの命を奪ってしまったらしい。しかも、自分の損得の為に式を立て、計算し、答を出した結果として。だからこそ葬儀で、誰かとまともに話をして、間近で目を合わせた記憶が、吹っ飛んで、無いのかも知れない。

 この三つが私を引き裂き、分裂させる感覚が迫ってくる。

 

 私は個室でひとり、席に座る。

 上から水をぶっかけられる。

 それはどこかの喜劇悲劇のような一幕だ。

 全身重く濡れた私は、行く当てがなく座り続ける。

 その内寒気を感じて体が震え始める。

 このままだとやばい、思うが何も出来ないで動けない。

 気が付くと動けないのではなく、体を縛り付けられているのに気付く。

 助けを呼ぶにも声が出せない。

 口が開かないのだ。

 沈黙の中に居る。

 

「あのさ、上野さん」

 下北の刺々しい声と口調で我に返った。

「・・・はい?」

 私は辛くも現実に戻る。心も、現実も、辛いことばっか。

「外部ゼミの課題の事なんだけどさ、学長―大学の学長が哲学科の学科長も兼ねてるの、知ってるよね?」

「・・・知ってますけれども」

「先生が亡くなったから、学長の端詰先生に論文出すことに決定されたんだ」

「・・・そうなんですか」

 端詰先生。端詰誠。それは下北の言う通りの人物で、私達が通うH学院大学の学長且つ、文学部哲学科の学科長。

 彼は、こいつ魔法使いかと疑念を抱きたくなる外見。長く白い髭を生やした老人。著作を大変な頻度で出版している精力的哲学者。確か学内ではノーベル文学、そして哲学賞候補にも上がる、との噂も一回か二回は流れた。

 

 客観的な目で考える。

 私は学内の教授を殺した原因だ。

 今度は端詰を相手に回さなければならないのか。

 

「あんた、ゼミの単位取れないと思うよ」

 私の思案していることそのものを、下北は直撃した。

 

 ムカついた。

 下北なぞに何ゆえそんな指摘をされなければならない。

 それは私個人の問題であって、下北がどうこう言う立場にあるわけではない。

 私は発言を聞いていなかった振りを装いつつ、完璧に無視し、違うことを言った。

「下北さんは、どうして私が誰も信用しない人間だと分かったんですか?」

 突然の方向転換にたじろぐ下北。

「私は確かに誰も信用しません。何人も、信ずるに値しない存在だと割り切って生きています」

「・・・それは、見ていれば分かるさ」

「私をですか?私の何処をですか?」

 畳みかける私に下北は後ずさりながらも、小さく答えた。

「・・・誰とも目を合わせないで、いっつもキョドってるじゃん?あんた」

 キョドってる。軽い響きだったが、中身は決してそうではない。

「え?そんな適当な言葉で言わずに、きちんとした言葉で述べたらどうですか?」

「・・・あんたは、他人を怖がっているよね。行動とか、雰囲気がいかにもって感じだよ。常時落ち着いてないよね。だから、僕は可哀想に思った」

 

 意外。

 私の内面は、外面の演技を通じ、外に筒抜けだ。

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