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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

【掌編】サイドビジネス、ネットデリヘル

創作

 高校時代、私はあの懐かしき単語、援助交際を現実のものとして実現させていた。

 

 手口はこうだ。

 インターネットの個人が運営しているホームページに割り込む。そして書き込む。更に仲間内へと溶け込む。それだけだ。

 

 そうしている内、ある男性と知り合った。彼は二十六歳で、バツイチ。ふたり子供を持っていて、片方は元妻の連れ子、もう片方は元妻との実の子。何故かその男が、その姉妹の姉となる前者、義理の娘までも面倒を見ているという。

 そのふたりの娘は、現代の日本社会らしく、ありえなく空想的な当て字を駆使した奇特な名前が付けられていた。それはこちらが彼女等の行く末を案ずるくらいのファンシーかつファンキーな名称だった。

 

 私はその男と接触することに成功した。

 と言うよりも、男が一方的に私へ会う意向になったのだ。

 彼は茨城に住んでいて、私は福岡に住んでいる。わざわざ関東からこちらへ来ると言う。

 私は男を試すつもりで伝えた。しかもメールで。

「私は一番近い空港が、熊本空港なんですよ」

 

 当時の私は高校生、空港など修学旅行と父母の帰省以外で縁もゆかりも無い。だからテキトーに発言してみただけだ。自分の家からどう言う経路で熊本空港へ行くのか調べる手段も詳しく知らず、ただ地理的に居住地が熊本に近いから、単純にそう言ってみただけだった。

 

 男はこう返した。

「分かったよ。じゃあ、九月二十七日に熊本空港に行くから、ユキは西日本鉄道のA駅で待ってて。午前十一時にね」

 

 私は彼からのメールを見て仰天した。

 まじっすか! 

 いや、当時のことばで言うと、ちょい待ち!

 しかし彼は本気らしい。その日から連続して、こういうメールを送り付けて来るようになったのだ。

 

「ユキのウエストは何センチ?スカート買おうと思うんだけど」

「ユキはどんなバッグが欲しい?具体的にね」

「ユキは将来、子供をふたり以上養えるかな?」

 

 高校生にこう言う内容を送って来るのは、彼の狂気の極みと言うしかないのか?それとも私が世間を舐めすぎた結果なのか?それとも単なる戯れか?

 分からないまま、九月二十七日が到来した。

 

 私は相手を逆上させるととんでもないことになりそうなテンションを感じたので、取り敢えず西日本鉄道A駅へ午前十時四十五分に降り立った。

 ぶっちゃけた話、こう言う奴に電車賃を使うのが大変に惜しい。

 でも服やバッグは魅力的だ。ふたりの子供は要らないが。

 

 A駅で十一時になると、こう言ったアナウンスが流れた。

「福岡県からお越しの、ユキ様、ユキ様、お待ちの方がいらっしゃいます、どうぞ受付へお越しくださいませ」

 ユキって私のハンドルネームじゃねえか!私は呆れ返った。ネット上の仮想名称で西日本鉄道の案内音声を利用するとは―こいつ只者ではない。これにより俄然興味が沸き、私は奴と遭遇する腹を括った。

 

 意を決して受付へ行くと、そこには小太りでなぜかクラッチバッグを抱えつつ、両手にコムサデモードの紙袋を一杯に持ったややこしい男がスカーフで汗を拭いていた。

 私は速攻で帰りたくなった。

 

 奴は言った。

「ユキちゃん?俺、イブ」

 そう。彼のハンドルネームはイブ。何故イブなのだろう。依然憮然としているのイブ?今も憮然としているのイブ?今更ながらも憮然としているのイブ?

 

 私はその点からして、彼に興味が無かったのだ。

 

 よく考えると、私達はお互いの本名を知らない。だから彼は私のハンドルネームでユキを呼び出すしか方法が無かったのだし、私も彼を「イブさん」と呼ぶしか選択肢が無い。

 半透明少女青年関係。

 

 イブはそれから私を映画に連れ出した。

 私は「この人いつ私にコムサをくれるのだろう?」と言う考えで頭を飽和させ麻痺させながら、何とかくっついて闇に紛れ映画を観た。

 

 その内容は、例に漏れず恋愛映画だった。どうしようもない主人公の男がこうしようもない女にああしようとして結局そうしようとして終わる、そんな下劣な十八禁の映画だった。

 当時の私は茶髪でボブヘア。化粧はしていなかった。だから十八を超えているのかそうでないのか、映画館係員も判断が付きかねるところだったと言って良いだろう。

 そもそも係員は私がそう言った年齢に合致しているかどうかに興味自体が無いらしく、「あ、お二人様。ありがとうございます」と言って好色な顔で私達を見ただけだった。

 その顔で気付いた。自覚したのだ。

 これは紛れも無い援助交際だ!と。

 

 イブは映画館で私に密着してきた。まじでこいつは逆上させるとクラッチで私を叩き殺すまで殴るかも知れない。被害妄想の強い私は、今日別れたらネットでもこいつと別れようと決心しながら知らないふりをして、前を見続けた。

 

 彼は仕事をしているらしい。映画の後に立ち寄ったマクドナルドにて、そう話された。

「俺、親父の会社の跡を継ぐんだ」

「そうですか」

「ユキ、大学は茨城に来ない?茨城大学だったら受かるでしょ?」

「そうですね」

「それで、一緒に暮らさない?」

「いやですね」

 

 本音が零れた。

 

 イブは持っていたクラッチを振り上げた、と思ったが、違った。そこから小箱を出したのだ。

「これ、受け取って」

 それには、イネドの腕時計が入っていた。

 

 コムサデモードと言い、イネドと言い、こう言っては何だが、何とも言えない流派のものばっかりくれるなこいつ、私は今俯瞰してそう思っている。

 

 イブが帰路に着く時間となった。私はマクドナルドの近くのJRの駅まで嫌々渋々こいつをこいつによるこいつの為の要請で、見送る羽目となった。

「ユキ」

 男は言った。

「はい。何でしょう」

 機械的に応える私。

 

「キスしていい?」

 

 固まる私。

 

「・・・ここ、駅のホームで、雑踏が大変にいらっしゃいますが」

 言葉遣いが変になった。

「いいじゃん。俺、娘ふたりともキスしてるよ?日常的に」

「・・・よくないです。常識を弁えてください」

「ネットで知り合った男とふたりきりで会うことからして、ユキも常識的かな?」

「それとこれとは話が違います。私は」

 あなたには興味がありません。興味があるのは、コムサイネドです。それは大事に使いますから、どうぞ私を解放して下さい。

 言おうとしたら、イブの乗る電車が快速でホームへ突っ込んできた。

「あ、来ました!さようなら!」

 私はイブと隣り合わせで座っていたベンチから速攻で立ち上がると、電車よりも快速の駆け足で逃げ去った。

 

 

 それから十年が経過しようとしている。

 私は相変わらずの人間で、男の渡してくる色々なものに滅法弱い。年月の経過と共に、性的関係もそれに加わった。妊娠と性病さえ避ければ、それで良いという考えに移行したのだ。

 

 そして、つい数週間前、私は自称公務に就く彼氏から、結果的に八万円を領収する形で逃亡を図った

 いや、それは只の格好つけで、彼氏が私に金を渡したまま、連絡先を一方的に全遮断したのだ。所謂現代用語で言う、ブロックだ。

 しかもそれは相も変わらずのインターネットでの出会いと別れの話。

 

 ブロック、それは壁、と言う意味。私はイブに壁を作ったし、その十年後、彼氏は私に壁を作って逃げた。

 

 私はいつも、他者に壁を作っている。

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