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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(19)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

 襖が左側に素早く滑り、眉を顰める別田と青ざめる下北の顔が現れた。

「・・・さつきさん、全部聞いていたんですか」

 下北が呟く。

「だから言っただろ?上野はこう言う奴だ」

 こうなったら私は聞き耳を立てていたことを、認めなければいけない。

 私は言った。

「聞いていました。私は大噓吐き、そう言いたいんですね?別田さん」

「それなら話が早いな。その通りだ。確認だが、上野、お前、嘘を吐いただろ?妊娠と言う」

「別田さん、あなたに答える義務はありません」

「じゃあ、嘘かどうかと言う事すらごまかすのか?」

「それも、返答する必要がありますか?」

 自分の虚偽発言しまくり行動について、私は一歩も言質を譲るつもりはなかった。これを認めたら負け、自分の中核にて誰かが、そう発していたからだった。

「やれやれ」

 硬くなる一方の表情と台詞の私に対し、別田は小馬鹿にした顔と声を浮かべた。それは大変に私の内部を傷付けた。

「下北、もうはっきり言えよ。ほら、上野はどうしようもない女だ」

「はっきりって、上野さんに言えば良いんだな?僕の言いたいことを」

「当たり前だろ。これで重々、こいつがどういう人間だかはっきりしたじゃないか」

 下北は視線を私の目に真っ直ぐ当てた。その目はいつか見た、何も読み取られない黒さとは違っていた。

「さつきさん」

「はい」

 私は機械的に答えた。

「僕は、あなたから一言も、あなたの気持ちをはっきり聞いていません。今答えてください」

 沈黙。

 別田が完全に吃驚した顔で言う。

「おい、下北?上野に告白していないか、それは?俺が言いたかったのは、違うことだぞ」

「別田君。僕は上野さんが好きなんだよ。誰も信じられない彼女に、僕を信じさせてやりたい」

「おい、お前だってさっき、自分のことを最優先するのが一番大事だって言ったじゃねえか!」

「だからこそ、自分の為に、上野さんを必要としているんだ」

 こいつ何言ってるんだ、私も別田と同じく引いた。

 下北は精神の病気じゃないかと思った。言っていることと考えていることが突拍子もないというか、素っ頓狂だ。しかも本人は至って真面目な顔をしている。もしかしてこれは、私が引き起こした死に至る病の影響ではないだろうか?だとしたら、私の策略は成功したと言う事になるけれども、まさかこんな形で自分に跳ね返ってくるとは。

 私は返答に詰まる。

「さつきさん。答えてください。僕のことが、好きなんですか?そうじゃないんですか!」

「私は、」

 好きでも嫌いでもないんだよ。他人はみんなどうでも良いから、イコール好きでも嫌いでもない、イコール関心がない―いや、それは嘘だ。関心が無ければ嘘を吐いて自分の論文に他人を活かそうとはしないのだ。では、私自身はどう思っているのか?

 分からなくなってきた。

 頭がこんがらがる。

 もしかしたら私自身も、病気なのだろうか?

 

 別田は私達の話を無言で聴いている。

 私と下北は、睨み合う訳でもなく、いがみ合う訳でもなく、馴れ合う訳でもなく、ただ互いを見つめている。

「さつきさん。いい加減に逃げるのをやめてください。それだから、他人をいつまでもあなたは排除し続けるんですよ」

「下北さん、私はそんなことをしているつもりはありません」

「さっきの別田君の話を聞いていたんでしょう!嘘を吐いていることを認めたらどうですか!そこからあなたは人から逃げている!」

「下北さん、あなたは、」

 頭が本当におかしい。私は明瞭に下北へ指摘してやりたかった。完全に自分と別田の主観が正しいと頭から信じ込んじゃってるよこの人、と思う。でもその観点と意見は、間違ってはいない。私こそが彼等からどうにかこうにかして逃げようと必死になっている構図がここにある。やはり狂っているのは私なのかもしれない。

 静かに女子の寝室の襖の向こうで声が発され、人影が現れた。

「・・・聞いてた」

 中村と他山も起きていた。

「・・・中村さん、恵ちゃん」

 私から零れる言葉。

 それはそうだ、これだけ真夜中に口論をしていて、気付かない方がおかしい。ふたりが起きて来るのは当然の結果だ。

「さつきが嘘、吐いてるのは本当だろうだと私も思ったよ、別田さんと下北さんの話聞いて」

 他山の語尾をだらしなく伸ばす癖は、今やどこかへ消えていた。

「上野さん。私はあなたのこと好きじゃないからこそ訊くけど、下北君のこと、どう思ってるの?曖昧にぼかすの、いい加減にしたら?」

 中村も厳しく詰め寄って来る。

 一度に様々な事象が渦巻いて、私の頭はパニックに陥った。いつも冷静沈着で品行方正で慎み深い、そんな上野さつきさんが窮地に陥っている。高校までの対人辛苦がフラッシュバックしそうな予感に、私の身体と舌は細かく痙攣する。

 

 タスケテ。

 でも、タスケテくれるのは、私しかいないのだ。

 他人なんて、結局はアテになんて出来ない。

 

 私は深く息を吸って、吐いた。

 そして言った。

「私とあんたは関係ない」

 

 そう、関係なんて他人と私とはありはしない。皆並んで行っている。『並行』だ。

 もう使えない。

 限界がある。他人なんて、頼りたくても頼ってはいけないのだ。

 

 自分の論文に必要なものが分かった。

 それは私の実体験。

 死に至る病に墜ちる実体験。

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