読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(14)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行 創作

 中村の悲壮は落ちることを知らなかった。

 アパレルへの就職活動を止めるとまで言い出したのだ。他山と別田が話し合う声が、ゼミの冬季合宿ミーティング前にこう聞こえてきた。

「私、もう嫌。哲学なんかやるんじゃなかった。やりたい職種と全然関係ないから、潰しが効かない」

「中村さん。そんな悲観するな。パタンナーの学校に行くんだろ?」

「別田君、違う。テキスタイルデザイナー」

「すまない」

「別に」

 こんな調子で一方通行の会話しか成り立たない中村に、皆は近付かなくなった。

 私にはと言うか、私に対しても、相変わらずの皆さんは疎外活動継続中。でも、時間がある程度経過したからか、「こいつそんな奴だったか」と言う強烈な偏見の目は和らいで、「そう言う奴ならこっちも相手しねえよ」と言う穏便な軽蔑の目に変わった。

 しかし下北だけは様子が違った。それはそうかもしれない。自分が妊娠させて、中絶されて、疎外されているらしい上野さん。それと関連して、自棄になっているのではないだろうか?もしやこう考えているのかと私は推測した。だから下北は遠慮がちな心配の目を細かく私に向ける。いつかの性欲に塗れた舐めつけるような視線は、何処にも無い。

 外部が資料を配りはじめる。各々椅子に座ったゼミ生は、各々にそれを座ったまま手渡ししていく。

 

『文学部哲学科外部ゼミナール 冬季合宿会 要項』

 

 口を開く外部。

「資料は行き渡りましたね。冬期休暇中の十二月二十六日から二十九日まで、三泊四日でバスにてN山の温泉宿に行きます。皆さんの親睦を深められるかと思いますし、四年生にとっては卒業旅行のようなものになるかとも考えます」

「ええっ!」

 他山が仰天する。

「どうなさいましたか?」

 外部が意外そうな表情を浮かべる。

「二十四日と二十五日、私は日中予定が詰まっています。準備が間に合うかどうか」

 私は黙りながら鼻で笑った。十二月二十四、二十五日は皆が浮かれるクリスマスだ。きっと他山には関連した用事があるのだろう。

「他山さん、学生の本分は勉学でしょう?」

「でも、私、人と約束してるんです。外せない約束を」

 皆が急に他山へと振り向く。こいつ彼氏いるんじゃん!抜け駆けかよ!そういう目だった。

「私もクリスマスは礼拝に出席しますが、合宿には必ず同行します。他山さんもそういう努力をされてください」

 外部が静かに目を閉じて言う。

「・・・はい」

「では、詳細の説明に入ります」

 こうだった。

 二十六日の朝十時にH学院大学正門前集合。そこから連れ立って駅ターミナルへ行き、高速バスへと乗る。そのままN山近くまで四時間掛けて走り、少し歩いたら宿に着く。そういう予定。

 私は心の中で、こんなのどうでもいいという感情と、あーめんどくせーという感想が混じり合っていた。現実に、楽しみながら書いている論文が、上級生を抜いて最高点を取ってしまったのだ。これで追加して勉強する必要が何処にある?そして、こんなゼミ生と一緒に三泊四日なんてとんでもない時間の浪費だ。正月に実家に戻る予定もなく、私は自分のアパートでのんべんだらりと過ごす予定を構築していた。そちらの方が余程浪費されない時間の遣い方だと、自分では思う。

「先生、私、まだ長旅は身体に堪えます」

 またもや嘘が私の口から出た。

 外部は憐れみと蔑みを込めた目で、私を見る。

「そうですね。あなたはそういう身体と状況かも知れませんね」

「ですから、今回は合宿を見送らせてください」

「いえ、これは強制参加です。来てください。以上です」

 こちらも強制的に外部は私の申し立てを却下した。考えれば、私は普通に大学へ通えて、講義を受けて、発表をしているのだから、旅行を拒否できるまでの体力の衰えはないと捉えられて当たり前だ。それを分かっていながらの、嘘だったけれども。

「持ってくるものは資料に明記してあります。合宿では、主に自習形式で各自、論文を最終稿まで詰めて頂きます。質問のある方は、私が同席して監督しますので、訊きに来てください」

 別田が手を挙げて発言する。

「僕は大学院の入試の勉強もしたいのですが、それは許可されますか?」

「別田君は、哲学専攻科への進学希望でしたね。許可します。論文が完成されることを約束した上でのものですが」

「ありがとうございます」

 中村は先日の三十四点事件がかなり響いているらしい。外部と目を合わせようとしない。

 下北は私をいつも以上に遠慮がち且つ、頻繁に見ていた。

 

 私はこう思っていた。

 冬期休暇で私の計画も詰めてやる。大団円。

 思いながら、私はペンで資料に『病』の構想を誰にも分からず、見られない様に書き込む。背筋に寒気が走ったが、それは秋から冬へ移行する季節のものではないことを知っていた。

 

広告を非表示にする