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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(10)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行

 産婦人科に行った私は事情を詳しく説明せず、ただ「避妊しなかった」と告げ、経口ピルを処方するよう診察で医師に頼んだ。こういう患者―と言って良いのだろうか?―は多々居るらしく、医師は「またか」と言わんばかり。日常茶飯事を眺めている目にて、話す私を見ていた。だから深く詮索はされなかったし、あっさりと診察と処方は完了した。

 しかしながら、薬剤代金を払うとき、私の心は当然荒れた。

 下北クソ男の欲望に塗れさせられた結果が、私の金銭の流出につながるのか!そう言う気持ち。くっそいい加減にしろ絶対この分は取り返す!そうも思った。

 医師はピルの副作用として、吐気や頭痛が現れることがあると話した。女性が日常から避妊目的で服用する量とは桁違いの量を一気に呑むため、今回のあなたの場合、その傾向は増すことだろうとも言った。しかし、下北なぞの子供をこの歳で中途半端に孕むなんて、その方が余程嫌だ。

 私は指定された時間に、指定された量を、指定された方法で呑んだ。

 

 案の定、吐気と頭痛はやって来た。

 

 一日大学の講義を休んで、次の日ゼミに出る為独り暮らしのアパートを出ても、それはなかなか収まらなかった。けれどもここで休んだら、中村から変な誤解を更に受けるだろう。「私の言う事が正しかった!上野は自責の念に囚われて弱っている!」そう捉えられると半ば確信したのだ。

 私はそう言うのが嫌いだ。自分が否定されるのが大嫌いだ。己が良いように解釈され誤解されるのが物凄く嫌いだ。

 だから体を引きずって、口と頭を腕と手で押さえながら、学術研究所五百四号室へ、それこそ決死の思いで到着した。

「し、し、し、失礼、します」

 私の発した声は、いつかの緊張しまくった下北のものにそっくりだった。うっわ私カッコわる、それが率直な感想。

「さつき、どうしたのよ!?」

 他山が目を見開いて、思わずドアに寄り掛かった私へと駆け寄って来る。

「いや、気持ちが悪いだけ」

 他のゼミ生一同も私に注目する。そりゃそうだろう。いつも沈着冷静模範的由緒節操正しい女子、それが私、上野さつきだから。

「上野さん、医務室に行った方が良いんじゃないか?どう見ても顔色が悪いぞ」

 別田も珍しく心配そうな顔をする。

「い、いえ、すみません、大丈夫です」

 私の発した声に被さって、中村が捨てる様に言った。

「良いんじゃない?自業自得よ。ほっとけば?」

 自分のプライドを崩す発言に、私は具合の悪さを忘れ、戦闘モード全開で中村を睨んだ。

 この雰囲気へ居心地悪そうに、下北が言う。

「さつきさん、僕が医務室、付いて行くから。行こう?」

「良いのよ下北君。上野さんにあなた騙されてるのよ?」

 中村はさも涼しげに続ける。

「皆、上野さんはね、」

 私は焦りと怒りで頭に血が上った。

「黙れこのクソアマ」

 私の本音が初めて大学で、口から音声として零れ落ちた。五百四号室を静寂が包む。中村が他の者とは違う意味で目を剥いて、私を見る。

 頭が即刻回転し、何かフォローしないとこれはまずい、私はそう結論を出した。

「下北さん。騙されてるとか、中村さんの被害妄想だから。そちらこそ放っておきましょう」

 私は何事もなかったように笑顔を取り繕って言った。

「でも、さつきさん、今、」

「え?何かありますか?」

「・・・だって、皆、ねえ?」

「・・・うん、そうだね」

 完璧に露呈。私の病的嘘吐き。頭が冷えていく。それは五臓六腑から手足の先まで、目にも留まらぬスピードで流れ落ちて行った。

 私は目の前の現実に向き合うことが出来ない。

「被害妄想押し付けられるの、私は苦手なんです。それだけです」

 一言何とか絞り出すと、私は廊下側へと顔を向ける。

 そこには外部が立って、厳しく私を見つめていた。

「せん、せい」

「上野さん。ちょっと一緒に来なさい。他の皆さんは、待っているように」

 頭の中が真っ白になった。

 本当に、ヘマをやらかした。

 

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