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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(8)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行

 言葉は悪いが、うひょ、と思った。

 誰かを殺したい感満載だ。

 この大和由祈は、キリスト教哲学を勉強していたらしいから、当然、キリスト教的精神を持っているのではないだろうか?それで殺す絶望死にたい、と来るか!

 そう思って私は俄然興味が沸いた。目次を見ただけで、私は黙ってこの本をかっぱらおうと思った。手持ちのトートバッグに入れて、更に中身、つまり本が外から見えない様に、ルーズリーフを挟んだファイルの間に差し込んだ。

 その時、微かな足音と扉の開く音がした。

 見つかった?私は警戒して息を殺す。

「ああ、本、どうしようかな」

 下北の声が響いた。独り言らしい。

 足音が段々こちらへ近付いて来る。私のしたことは見つかるとまずいけれども、私自身は見つかった所で大した害はないだろう。だって、相手、下北だし。真面目一辺倒で酒に酔ってもどもりながらでないと女を誘えないような男。

「下北さんですか?」

 私は声を掛けた。

「え!あ?さつきさん!?」

「はい、そうです」

「何処にいるんですか?」

キルケゴールの棚です」

「行きます、今!」

 耳障りで場所に似合わない大きい足音がして、即座に下北がやって来た。今日はリクルートスーツ姿だった。

「どうしたんですか?その格好」

「ああ、公務員予備校で、必要なんですよ。ネクタイの締め方とか、僕苦手なので」

「えっ?」

「いや、高校まで僕、学生服だったんです、制服。だから慣れてないんです、ネクタイ」

「それは、自主的に練習、出来ないんですか?」

「いえ、予備校は手取り足取り教えてくれるんです」

 と言って下北は私の顔から視線を外し、ミニスカートから伸びる脚を見た。きっとこの前寝たことを想起したのだろう。

 

 下北は私の脚に異様な程興奮していた。俗に言うフェティッシュ、フェチってものだろう。「さつきさん、脚がきれい」と言って太腿を何回も撫でていた。寧ろ技巧のあれこれよりも、私の身体そのものに興味がある感じだった。勃ってはいるもののなかなか挿入せず、限界まで脚を触り続けていた。それは変態に近い雰囲気がある様だった。真面目な奴ほどいやらしい、と誰かが論を展開していたが、それはもしかしたら下北に当てはまるのではないだろうか?

 

「さつきさん、」

 唐突に抱き倒された。私の持っていたトートバッグの中身が散らばる。そこでも私のどこかは、バインダーに挟んだ私の犯罪行為を気にしていた。

「好きです、」

 強かに体を古いカーペット張りの床に打ち付けた。下北がその上から覆い被さる。

「ちょっと、下北さん」

「黙って。言う通りにしてください」

「でも、ここ、哲学文庫、」

「いいですから」

 着ていた薄いカーディガンとシャツを脱がされた。ミニスカートも同じく。

 こんなところでセックスですか、私はやはりどこかで冷静かつ客観的に現実を見つめている。下北は私を裸にさせると、自分もスーツを脱いで、不器用にネクタイを外した。どうやらネクタイが不慣れ、と言う彼の自己申告は本当らしい。

「下北さん、学内でこんなことしたら、退学処分ですよ、」

「我慢できない」

「でも、」

「ここなら誰も来ない。すぐ終わるから」

「すぐって、」

「黙って」

 また脚を上下に撫でる下北。顔は真面目でも、今現実に行っていることとの相違が淫らではないだろうか。私の左足首に硬いものが当たる。太腿に唇を付ける下北。

 自分に限らず、人間には表面と側面があるものだ、私は思った。

 

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