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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(4)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行

 「うわ、やばっ」

 これが私の正直な気持ちだった。別に下北と付き合うつもりなんて一切合切なかったし、周りにはやし立てられた下北は癖のある黒い短髪を掻いて、「いや、そんなことない・・・いや、ありますね、ねえ、上野さん」とただ連発するのだった。

 私サイドからしてみれば、下北も周りも自分の発言も消し去りたかった。何で私がこんな真面目さだけが取り柄っぽい太り気味で暗くて意味もなくパンクな発言をする男と?別に私は真面目さが取り柄っぽくはなく太り気味でもなく暗くもなく意味ありげにしかパンクな発言をしないつもりの女だけれども、こればかりは勘弁して貰いたかった。

 でも、どうとも真意が取られる発言をしてしまった私に責任がある。

 私は腹を括った。

 「下北理司を使おう」

 よく中高生が行うカツアゲ万引きパシリ、そう言うものではなく、もっと崇高な他人の利用法を私は即座に思い付いていた。

 盛り上がるバーの只中で、私は考えを一気に収束させて最大限出来る笑顔を浮かべ、下北を見た。下北の顔色は赤から橙に変わった。こいつ飲み過ぎているのでは?思ったけれども例に漏れず、私はそれについて何も言及しなかった。

 私は言った。

「あの、下北さん。もしかしてとは、思うんですけれども。私のこと、」

「ははははははははい、好きです!可愛いです!綺麗です!上野さん!」

 酒の勢いもあるのだろうけれども、下北のことばに一挙に場が盛り上がるバー。

「私、なんか邪魔だから帰るねぇ。嬉しいしさぁ。下北さん、ずっと私にほんとはね、さつきのこと相談してきてたんだよぉ」

 他山が私の腕を無理に引っ張って耳元で囁いた。

「恵ちゃん、相談って、ねえ、」

「下北さんは、ゼミで一緒になってから、さつきのこと好きだったんだよぉ。じゃあねぇ」

「ねえ、」

 意味深な笑いを浮かべて、他山は千鳥足で店を出て行った。金払わないで逃げるつもりか!

「別田さん、中村さん、どうにかして下さい」

 私はここでも人を利用しようとする。ふたりが居た場所に目を遣ると、こいつらも忽然と消えていた。おい!私達に金払わせる気か!

 下北は周りに煽られて、芋焼酎を一気に呷った。しかもストレートで。何とも言えない息苦しきその異臭が漂う。暴走と酩酊していく下北に、私は歯止めがかけられない。

「ぼぼぼぼぼぼ、僕と、付き合ってくれます、よね、上野さん?」

「いや、困ります」

「ここここここ、困るって、何が、ですか、上野さん?」

「だって、私は」

 他人が信じられないんですから。

 言いたくてもそんなことは言わなかった。言ってしまったらこいつ何自閉ぶってるんだと一蹴されて一笑されるだけだろう。それにもう決めたのだ、最高の下北の利用法を。それを遂行するのは、最高の悦楽と最高の快楽と最高の愉楽があるだろう。それらすべて含め、この計画は実行する価値が絶対にある。

「ええと、下北さん。ありがとうございます。良いですね」

「おお!お嬢ちゃんから許しが出たぞ!やったな若造!」

 私の返答に先程から絡んでいるサラリーマンが過剰に反応する。それに連鎖してバーは歓声に沸いた。

「ああああああああああああありありありあり、ありがとうございます、上野さん!」

 下北はその晩、気を失うまで酒を飲んだ。

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