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YUKIPEDIA

小二で挫折、中二病を引きずり、高二で転落、現在第二の人生を歩む!

『並行』(2)―本当にバカなのは誰だ?

創作-並行

 他のゼミ生で、あとひとり今日発言をした学生が居た。別田渡、私達と同じく哲学科の四年生で、H大学大学院哲学専攻科を志望する、とにかく大きい男。

 大きいのは志望先だけでなく、態度もそうだし、体格も同じで、顔すらひとつひとつうるさい程パーツが大きい。

「俺だったら、卒論に向けて中村さんみたいな個人的でフラストレーションの発散みたいなことを選ばない。仮にも学校に出す論文なんだ。もっと真面目に書けよ」

 スケールまで大きな発言に、中村は舌打ちした。でも、内心、いいところを突いているのは別田、私はそう思った。

「飽食と幸福、不幸を繋げて考えるのは新しいけれども、自分が関係しているからって言う書き出しは止めるべきだと思う。先生、どう思いますか」

 外部もこの発言には頷かざるを得なかった。

「ま、まあ、そうですね。自分のコンプレックスを解消するのも、哲学のひとつのテーマだとは思いますが。確かに別田君の意見も一理ありますね」

 私は目だけ動かして三者の攻防戦を見つめる。

「あの、別田君。私はあなたに自分の卒論のテーマをどうこう言われる筋合いはないのよ。私は、書きたいことを書いていいって言うこのゼミの趣旨に則っただけよ」

 中村が青筋をこめかみに立てて反論する。

「そうか?書きたいこと、って言っても節度は守れよ」

 別田は冷静に、それでいながらどこかしら中村を卑下している。

「まあまあ。ふたりとも。私がこのゼミの担当ですから。中村さんがきちんと論文を書けるのならば、それで大丈夫ですよ」

 外部が苦し紛れにフォローに入る。

「先生!哲学とは、冗談半分で考えて良いものでしょうか?」

 個人的に私の考える答は、正で否だ。つまり、どっちでもいいんじゃん?そう言う結論。

 自分は他人に寄ってきて欲しくない、イコール自分だけの世界で感じたり考えたりして過ごしたかったから、哲学を選んだ。だから他人がどう思おうと、知ったことではないのが本音だ。皆他人を気にし過ぎなんだよ。自分だけの世界の中で生きることが出来たら、それこそ本当に楽だと思うんですけれども?そう思う。

 詰まる所、哲学は自己内部へ回帰するためのツールとして私の中で存在しているのだ。でも、そんなことは口にしない。私は一応下級生として在籍している訳だし、他人の議論に口を挟む義理とお節介もない。一言で片づけると、「うるせー」に終始する。私の心は私だけのものだ。

 別田の主張は常識的に正しい。どう見ても正しい。自分の気にする体型について書き、哲学学士資格を貰おうだなんて中村の考え、高卒認定から半ば意地になってストレートでH学院に入学を果たした私にとって見ると、犯罪だ。あなたのテーマ、自分では新しくて書きやすくてユニークだと思っていらっしゃるんでしょうけれども、過去の偉人や他の学部生が苦笑いしている様子を客観的に見られたらいかが?と、普段絶対独り言では使わないお嬢様ことばまで登場する始末。

 私は頭の中でこうやっていつも自問自答を繰り返している。そうしないと考えが整理出来なくて気が狂いそうになる。考えが頭から今や溢れそうな感じ、と言ったら当たっているだろう。感じることが過剰で、吐き出す為に哲学と言う頭の運動を必要としているのかも知れない。私はね。

 呑気な音で鐘の音が学内に響き渡る。と言ってもそれは、鐘を凝らした電子音のチャイム。

「で、では、今日は切りよくここまでで終わりましょうか。中村さん、別田君、あなたたちの考えていらっしゃる事はよく分かりました。もう今日は終わりですし、ゼミ生で飲みにでも行きなさい」

 外部の声に「げっ」と私は声が出かかった。けれども鉄壁のポーカーフェイスはこの位で崩れない。

 早く帰って本読んで音楽聴いて寝たい。食べるのと飲むのは、どうでも良い。それは私ひとりきりの場合で、これがゼミ生と一緒の場合となると、話は変わってくる。

 誰も信用できない。

 誰ひとりとして。

 だから、誰とも付き合いたくないのだ。

 

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